日経平均は1,130円下げて、その日の一番安いところで取引を終えました。きっかけは朝に発表された経済指標です。中身は「日本の景気は思ったより強い」でした。
7月の給料は前の年より+4.7%(予想は+3.8%)。3%を超える伸びが6カ月続いたのは1992年3月以来です。 物価の上昇分を引いた実質賃金も+2.4%で7カ月連続プラス。街角の景気を聞く景気ウォッチャー調査も、経常収支も予想を上回りました。
いいニュースが並んだ日に、株は1,130円下がりました。今日いちばん覚えておきたいのは、「良い数字」と「株が上がる」は別々に動くということです。
前回の仮説チェック
9月7日の記事で3つの仮説を立てました。判定日は今日9月8日です。
仮説①: 2日で24%上がったソフトバンクグループは、3日目に売りが出る トリガー: 9/8の終値が前日比▲3%以下、かつ日経平均がマイナス 結果: ❌ 否定された(無効条件に該当) 学び: ソフトバンクグループは**+5.45%(6,556円)でプラス引け**。日経平均が-1.70%、値下がり銘柄が値上がりの3倍という全面安の中で、逆に上がりました。無効条件で決めていた通り、3日間の押し上げ額を合計して残します。9/4に+473円、9/7に+504円、9/8に+273円。3日で約1,250円。今日の下げ幅1,130円より大きい額を、この1社が3日で積み上げていたことになります。
仮説②: 日経平均が上がる日でも、値下がり銘柄のほうが多い状態が続く トリガー: 9/8の日経平均がプラスで引け、かつ値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を上回る 結果: ⏳ 判定対象外 学び: 日経平均が-1.70%のマイナスだったので、決めておいた通り判定に使いません。「下げた日に値下がりが多いのは当たり前」だからです。ちなみに今日は値上がり362/値下がり1,158でした。
仮説③: 銀行安は利上げ観測ではなく、10年債の利回りが3%を割ったことに反応している トリガー: 9/8の新発10年債利回りが2.95%以上に上昇し、かつ銀行業がプラス 結果: ⏳ 判定不能(トリガーも無効条件も成立せず) 学び: 利回りは2.885%(前日比-0.045%)とさらに下がりました。「2.95%以上に上がったら」という条件を両方の入口に置いていたので、下がった今日は何も判定できません。銀行業は-1.48%でマイナス。利回りが下がって銀行が売られたので、方向としては仮説と矛盾しませんが、それは確認とは呼べません。
3本のうち決着したのは①だけでした。②と③が流れた理由は違います。②は「日経がプラスの日」という前提が来なかっただけ。③は自分が置いた条件が片側だけを向いていたからです。「上がったら」でトリガーと無効条件の両方を作ってしまうと、下がった日は永遠に判定できません。明日の仮説では直します。
主要指数
・日経平均 65,269.33円(-1,130.51 / -1.70%) ・TOPIX 4,050.33(-75.47 / -1.83%) ・グロース250 787.06(-4.55 / 約-0.57%) ・東証プライム 値上がり362 / 値下がり1,158 ・売買代金 8兆4,774億円 ・ドル円 安値152円88銭(約半年ぶりの円高水準)、引けにかけて154円台へ戻す
プライム市場で下がった銘柄は全体の74.5%。日経平均の中身で見ると、上がった59銘柄が指数を**+365.26円押し上げ、下がった165銘柄が-1,495.77円**押し下げて、差し引きが-1,130.51円です。この2つの数字を足し引きすると下げ幅とぴったり合います。
相場を動かした3つのポイント
① 「日本経済が強い」というニュースが、株を売る理由になった
朝の8時30分に、経済指標がまとめて出ました。 7月の給料(現金給与総額)は+4.7%で予想の+3.8%を超え、物価を引いた実質賃金も+2.4%。景気ウォッチャー調査(街角で働く人に景気の実感を聞く調査)は現状46.4・先行き48.3で、どちらも予想より良い。経常収支(日本が海外との取引で稼いだお金の合計)も2兆9,889億円で予想超え。GDPの改定値は年率+1.4%と、最初の発表の+1.1%から上方修正されました。
問題は、これが日銀が金利を上げやすくなる材料だということです。給料が上がって物価も上がるなら、金利を上げてブレーキをかける理由になる。市場はもともと9月17〜18日の会合での利上げを8〜9割の確率で見込んでいて、今日の数字がそれを固めました。金利が上がる国のお金は買われるので、円高が進みます。
→ 僕のルール:経済指標が良かった日は、株ではなく先に為替を見る。指標の良し悪しと株価の方向は、間に「中央銀行が何をするか」が挟まるので直接つながりません。今日の指標を見て「景気がいいから株high」と考えたら、方向を180度間違えていました。
② 円が152円88銭まで進み、輸出企業がまとめて売られた
ドル円は日中に152円88銭をつけました。約半年ぶり(2月中旬以来)の円高水準です。先週水曜(9/2)は一時160円39銭をつけていたので、4営業日で7円以上動いたことになります。円高は、海外で稼いだお金を円に換えたときの金額が減るので、輸出企業の利益にマイナスです。
業種別の下位を並べると、その通りの並びになりました。ガラス・土石製品-4.44%、輸送用機器(自動車)-4.14%、電気機器-3.90%、機械-3.65%、精密機器-3.64%。 33業種のうち24業種が下落しています。
いちばんはっきり出たのは時計株でした。セイコーグループ-15.48%、シチズン時計-12.19%。 決算が悪かったわけではありません。シチズンの2026年3月期の決算は、営業利益が+46.9%の増収増益です。それでも12%下げました。理由は、円高で海外の売上が目減りするうえに、日本に来る旅行者の買い物(インバウンド需要)も冷えるという見方が同時に立ったからです。
→ 僕のルール:円が1日で1円以上動いた日は、決算の内容を株価の説明に使わない。今日のシチズンを「増収増益なのに下げた、おかしい」と考えると止まってしまいます。決算はすでに株価に入っていて、今日動かしたのは為替だった、と分けて考えます。
③ 全面安なのに、ソフトバンクグループ1社が日経を273円押し上げた
今日、日経平均を押し上げた59銘柄の合計は+365.26円です。そのうち272.74円、つまり74.7%がソフトバンクグループ1社でした。2位のニトリホールディングス(+14.75円)とは18倍の差があります。
一方の押し下げ側は、東京エレクトロン-185.04円、アドバンテスト-164.12円、TDK-103.33円、イビデン-93.19円、キオクシア-49.75円と続き、上位10銘柄で-798.59円。これは下げ幅1,130円の**70.6%**にあたります。
ここで前日と並べると、見え方が変わります。9月7日に上げ幅の88%を作った4銘柄は、ソフトバンクグループ・アドバンテスト・東京エレクトロン・キオクシアでした。今日、そのうち3つがそのまま押し下げ上位に並んでいます。 残ったのはソフトバンクグループだけです。
→ 僕のルール:少数の銘柄が指数を作った日を見つけたら、翌日その銘柄がどちら側に並んだかまで確認する。「一部の銘柄が指数を歪めている」と指摘して終わると、その歪みがどう解けたのかを一度も見ないままになります。今日の答えは「3つは翌日に戻し、1つは残った」でした。
セクターの強弱——「何が買われて、何が売られたか」
買われたのは、円高が効かない業種と、原油が上がって得をする業種でした。
上位は情報・通信業+2.20%、石油・石炭製品+1.91%、鉱業+1.08%、陸運業+0.61%、小売業+0.37%。下位は前述の輸出製造業です。
見てほしいのは上と下の幅の違いです。上位5業種のうち3つは+1%未満なのに、下位5業種はすべて-3.6%を超えています。 上がった業種は「少し上がった」で、下がった業種は「大きく下がった」。買われた側にも理由はあって、情報・通信はソフトバンクグループ、石油・石炭と鉱業は原油高(後述)です。積極的に買われたというより、売られる理由がなかった場所にお金が残ったという見え方をしています。
売買代金上位・注目銘柄
・キオクシアHD(285A) 2兆662億円(-3.56%) ・ソフトバンクグループ(9984) 7,264億円(+5.45%) ・アドバンテスト(6857) 3,372億円(-1.97%) ・太陽誘電(6976) 2,394億円(-7.92%) ・イビデン(4062) 1,831億円(-6.26%) ・フジクラ(5803) 1,815億円(-3.01%) ・ティアフォー(593A) 1,769億円(-2.28%) ・日経レバレッジETF(1570) 1,479億円(-3.25%) ・村田製作所(6981) 1,431億円(-7.83%) ・東京エレクトロン(8035) 1,318億円(-3.30%)
上位10のうちプラスはソフトバンクグループだけです。キオクシアの2兆662億円は2位の約2.8倍で、この日も最も売買された銘柄でした。ただし前日は+9.31%、今日は-3.56%。商いが大きい銘柄が、そのまま方向を決めているわけではありません。
個別株で目立った動き(ストップ高/安含む)
・セイコーグループ(8050)-15.48%:円高でインバウンドと海外売上の両方に懸念。決算ではない ・シチズン時計(7762)-12.19%:同じく円高。2026年3月期の決算は営業利益+46.9% ・第一工業製薬(4461)-11.52%:値下がり率上位 ・太陽誘電(6976)-7.92%:SMBC日興証券が目標株価を18,500円→10,800円へ引き下げ。サーバーや車載向けの在庫調整と単価下落が理由 ・ストップ高7銘柄、ストップ安0銘柄:ヴィッツ+24.78%(フィジカルAIの研究テーマが中小企業庁のGo-Tech事業に採択)、誠建設工業+24.41%、フォーサイド+18.18%(前日発表のM&Aを引き継いで2日続伸)、トミタ電機+14.52%(上期業績の上方修正)、豊和工業+12.34%(ドローン開発での連携強化)
太陽誘電の目標株価引き下げは、18,500円から10,800円へと42%の切り下げです。証券会社が「この株はこのくらいの値段が妥当」と考える金額を、4割以上下げたことになります。
そしてもうひとつ。プライムの74.5%が下げた日に、ストップ高が7銘柄あってストップ安はゼロでした。 前日9月7日とまったく同じ内訳です。指数が上がった日も下がった日も、材料を持った小型株はそれとは関係なく動いています。
為替と外部環境
・ドル円 安値152円88銭 → 17時時点154円00〜10銭 ・米国(9/4金) ダウ-0.51% / S&P500 -0.38% / ナスダック-0.29% / SOX +3.37% ・上海総合 3,940.55(+0.20%)/香港ハンセン 25,317.18(-0.38%) ・新発10年国債利回り 2.885%(-0.045%) ・WTI原油 9/8の東京時間で92.96ドル(+1.61%)/金 4,400ドル台で軟調
今日の東京市場には、アメリカからの新しい手がかりがありませんでした。 9月7日(月)はレイバーデーでニューヨーク市場が休みだったからです。だから「前日の米国」は9月4日(金)のもので、その日のSOX指数+3.37%という材料は、9月7日の東京がすでに使い切っていました。外からの材料が空白の日に、国内の指標だけが相場を動かしたという構図です。
原油が上がったのは中東です。イエメンのフーシ派が、サウジアラビアのエネルギー施設(アブハ、ナジュラン、ジザーン)と軍用飛行場をミサイルとドローンで攻撃し、73人が負傷して一部の施設が止まりました。石油・石炭製品と鉱業が業種別の2位・3位に入ったのはこれが理由です。
そして今日いちばん引っかかったのが金利です。利上げの観測が強まって円が買われたのに、10年国債の利回りは2.885%まで下がりました。 銀行株も-1.48%です。金利が上がると銀行は儲かりやすいので、利上げが近いなら銀行株は買われるはずです。為替は利上げを見ていて、債券は見ていない。 これは9月7日の記事でも「いちばん整理がつかなかった場所」と書いた場所で、今日も解けませんでした。むしろ円は156円台から152円台へ、利回りは2.906%から2.885%へと、ズレは2営業日で広がっています。
テクニカルで見る今の位置
今日はTradingViewのデータを取得できなかったので、公開情報での簡易版です。
・日経平均のPER(予想)17.08倍、PBR 1.87倍 ・市況解説では、25日移動平均線と75日移動平均線が上値の抵抗として意識されたとの指摘
移動平均線というのは、過去25日や75日の平均値をつないだ線のことです。今の株価がその線の下にあると、そこまで戻ったところで売りが出やすくなります。今日の日経は9時58分に66,791円まで上げたあと、そこから1,500円以上下げて安値で引けました。上に跳ね返された形が、そのまま数字に出た1日でした。
※テクニカルの数値は公開情報に基づく簡易版です。投資判断は自己責任で。
全体像:良い数字が売り材料になり、悪くない銘柄が売られた日
外の材料が空っぽの日に、国内の指標だけが相場を動かしました。 アメリカは前日が休場で新しい手がかりがなく、その前の金曜のSOX高はもう使い切っていた。そこへ朝、賃金・景気ウォッチャー・経常収支が揃って予想を上回る。日銀の利上げが確からしくなり、円は152円88銭へ。輸出企業が業種別の下位を独占し、時計株は決算と関係なく12〜15%売られました。下げ幅の70.6%は上位10銘柄が作り、上げの74.7%はソフトバンクグループ1社が作っています。
こういう相場で僕が意識しているのは、「この下げは誰の判断で起きたのか」を分けて考えることです。今日セイコーやシチズンを売った人は、その会社が悪くなったと思って売ったわけではなく、為替の水準が変わったから持ち高を減らしただけかもしれない。会社の評価が下がったのか、為替の計算が変わっただけなのかで、その後の戻り方はまったく違うはずです。今の僕にはどちらか判断できないので、判断できないと分かった時点で手を出さない、というのが現時点の結論です。
今日の迷い・判断メモ
迷ったポイント: この記事の主役を「賃金+4.7%という良い数字で株が下がった」にするか、「上げの75%がソフトバンクグループ1社」にするかで迷いました。後者のほうが数字としては派手です。ただ「少数の銘柄が指数を作った」という切り口は、8月10日・8月18日・9月7日と1か月で3回書いていて、今日で4回目になります。
結局どう考えたか: 主役は前者にしました。9月7日の学びとして自分で「同じ型を3回使ったら、指摘して終わりにせず前回のズレがその後どうなったかを足す」と決めたからです。4回目の同じ型を主役に置くのは、発見ではなく作業に近いと判断しました。
後から振り返って: ただ、4回目を書いたこと自体は正解だったと思っています。9月7日に上げ幅の88%を作った4銘柄のうち、3つが翌日そのまま押し下げ上位に並び、1つだけ残った。「少数銘柄が指数を作った翌日はどうなるか」に、初めて答えが1つ出ました。 過去3回はズレを指摘して終わっていたので、今回が初めての追跡になります。主役にはしませんでしたが、ポイント③に残せたのはよかった。
自分なら何を確認してから動くか
- ドル円が152円を割るかどうかだけを見る。 9月17〜18日の日銀会合まで、輸出企業には触らない
- 売買代金が8兆円台を保っているか確認する。 今日は8兆4,774億円。ここが減って下げが止まったなら「売りたい人が減った」だけなので、上がる理由と混同しない
- ソフトバンクグループの押し上げ累計が、日経の下げ幅を超えている状態がいつまで続くか記録する。 数字を追うだけで、売買の判断には使わない
明日の観測ポイント
明日9月9日(水)は朝8時50分にマネーストック(世の中に出回っているお金の量)が出ます。9月11日には国内企業物価指数。日銀の会合は9月17〜18日です。
① 仮説: 3日で+31%上がったソフトバンクグループは、4日目に上げが止まる
トリガー: 9/9の終値が前日比マイナス → 「4日目で止まる型」として記録し、9/4からの押し上げ累計を確定させる
無効条件: プラスで引ける → 4日連続の上げとして、押し上げ額を累計に足して記録を続ける
判定対象外: なし(プラスかマイナスかの2択にします。前回「▲3%以下」という条件を付けたせいで、判定できる範囲を自分で狭めてしまった反省です)
→ 僕のルール:1社の押し上げ累計が1,000円を超えたら、その銘柄の方向だけを毎日記録する。上がるか下がるかを当てにいくのではなく、この状態が何日続くかのデータを溜めます。
② 仮説: 円が154円台に戻したのに株が安値引けしたのは「時間切れ」であって、株が円の戻しを拒否したわけではない
トリガー: 9/9の日経平均が寄り付きでプラス → 前日の円の戻しを翌朝に取りに行ったと記録する
無効条件: 寄り付きがマイナス → 円が戻っても株の材料にはならなかったと整理し、為替と株の連動を前提にした説明をいったん捨てる
判定対象外: 9/9の朝までにドル円が152円台へ戻っている場合(前提そのものが消えるため)
→ 僕のルール:引け際に為替と株が逆を向いた日は、翌日の寄り付きだけを見る。前場の途中から新しい材料が混ざるので、判断材料は寄り付きに限定します。
③ 仮説: 「利上げ観測で円高なのに長期金利は低下」というズレは、どちらかが折れる
トリガー: 9/9の新発10年債利回りが2.92%以上に上昇 → 債券も利上げを見始めたと確定させる
無効条件: 利回りが2.86%以下に低下 → ズレが3営業日続いたことになるので、「一時的なズレ」という説明を捨てて、銀行株の騰落率とセットで記録を続ける
判定対象外: 2.86〜2.92%の範囲内(前日比±0.03%程度の動き)
→ 僕のルール:説明がつかない組み合わせは、どちらかが動く日まで結論を出さない。ただし3営業日続いたら「そのうち直る」という前提のほうを捨てる。今回はトリガーを「上昇」、無効条件を「低下」に分けました。前回は両方を「上昇したら」で作ってしまい、下がった日に何も判定できなくなったからです。
明日この仮説がどうなったか、また振り返ります。気になることがあればコメントで。
今日の3語メモ
+4.7%:7月の給料の伸び。予想の+3.8%を超え、6カ月連続で3%超。良い経済指標が出た日は、株の方向を考える前に「中央銀行がどう動くか」を挟む
75%:日経平均を押し上げた59銘柄の合計+365.26円のうち、ソフトバンクグループ1社が+272.74円。指数がどちらに動いたかを見たら、次はそれを何銘柄で作ったかを見る
152円88銭:ドル円の安値で、約半年ぶりの円高水準。円が1日1円以上動いた日は、個別株の値動きを決算の内容で説明しない
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この記事はjiyon(@jiyon_kizuku)の相場振り返りシリーズです。 投資判断は自己責任でお願いします。データは2026年9月8日時点のものです。