ナスダックが+0.54%上がりました。数字だけ見れば穏やかな日です。
でも中身を開けたら、巨大テック7社(Mag7=アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、エヌビディア、メタ、テスラ)のうち6社が下がっていました。上がったのはエヌビディアだけ。
指数の重さの大部分を占める7社が総崩れなのに、指数はプラス。じゃあ誰が押し上げたのか。今日はそこを追いかけた一日でした。
前回の仮説チェック
前回(8/11)に立てた3つの仮説を、今日のデータで答え合わせします。
仮説①: 8月11日の下落は市場全体が売られたのではなく、アルファベット1社の材料による見かけ上の下げだった トリガー: CPIが波乱なく通過した日に、アルファベットが下げ止まる一方で他の大型テックが揃って戻す 結果: ⏳ 半分だけ当たり
アルファベットは-0.2%でほぼ下げ止まりました。ここは想定どおりです。でも「他の大型テックが揃って戻す」は起きませんでした。メタ-3.40%、マイクロソフト-2.3%、アマゾン-1.8%、テスラ-1.6%、アップル-0.87%。戻すどころか揃って売られています。
無効条件だった「ラッセル2000(小型株の指数)を含めて全面安」も起きていません。ラッセルは+0.61%で、今日いちばん強い指数でした。
学び:仮説の当たり外れが「どちらでもない」に着地することがある、と分かりました。8月11日の下げがアルファベット1社の事情だったことは否定されていない。でも8月12日は、それとは別の理由で大型テックが売られた。前日の説明が正しくても、翌日に同じ理屈が効くとは限らない。仮説は「1日ごとに使い切り」だと考えたほうが良さそうです。
仮説②: 決算の株価反応を決めているのは実績の良し悪しではなく、通期ガイダンス(会社が示す将来の見通し)の上下である トリガー: 「実績が予想超えなのに見通し引き下げで下落」または「実績が未達でも見通し強気で上昇」がもう1件出る 結果: ⏳ 判定に必要な材料が出なかった
今日反応が出た決算銘柄は、実績も見通しも両方良いものばかりでした。CoreWeave、Nebius、Lumentum、どれも「実績が予想超え+見通し引き上げ」で素直に上がっています。実績と見通しが逆方向を向いた例が今日は出なかったので、仮説を試す機会そのものがありませんでした。
これは大事なところで、「検証できなかった」を「否定された」と書いてしまうと記録が壊れます。⏳のまま次に持ち越します。
(スーパーマイクロは売上未達+見通し強気で+13〜14%と、まさに該当しそうな動きでした。ただ発表が8月11日の引け後で、前日8月11日の時点ですでに大きく上がっていた銘柄です。今日の上昇が新しい反応なのか前日の続きなのか切り分けられないので、帰属日が不確定なものは仮説の証拠に使わないというルールで数えませんでした。CoreWeaveも同じく8月11日の引け後発表ですが、こちらは前日に動いておらず今日が最初の反応と判断できたので、上昇銘柄としては扱っています。ただし「今日発表された決算」ではない点は正確に区別しておきます)
仮説③: 公益と小型株が同時に買われたのは、表向きの「原油高→利上げ観測」とは逆に、金利が下がっていたためである トリガー: 10年債利回りの確定値が取れた時点で、8月11日が前日比マイナス(低下)だったと確認できる 結果: ✅ 確認された
FRBが出している公式の金利表(H.15)に到達できました。10年債は8月10日の4.72%から8月11日は4.70%。2年債も4.25%から4.22%。どちらも下がっていました。
前回の記事で「一次ソースに到達できなかった日の金利は、方向すら書かない。翌日以降に確定値が取れてから遡って埋める」と自分でルールを書きました。今日それを実際に埋められたのが、地味ですが今日いちばん嬉しかったところです。書かずに待つと、後で正解が手に入る。推測で埋めていたら、この確認は永久にできませんでした。
Mag7は1勝6敗だった
今日の7社を並べます。
| 銘柄 | 終値 | 前日比 | |---|---|---| | エヌビディア | $224.09 | +3.03% | | アルファベット | $342.37 | -0.2% | | アップル | $302.25 | -0.87% | | テスラ | $327.51 | -1.6% | | アマゾン | $267.28 | -1.8% | | マイクロソフト | $492.43 | -2.3% | | メタ | $578.85 | -3.40% |
1勝6敗です。それでもナスダックは+0.54%で終わりました。
ここで指数の並び方を見ると、答えの方向が見えてきます。
| 指数 | 前日比 | |---|---| | ラッセル2000(小型株) | +0.61% | | ナスダック総合 | +0.54% | | S&P500 | +0.26% | | NYダウ | -0.04% |
会社の規模が小さいほど強いという並びになっています。時価総額の大きい会社を集めたダウだけがマイナス。逆に小型株の集まりであるラッセルが最強。
つまり今日は「テックが買われた日」でも「テックが売られた日」でもなく、テックの中で買われる場所が入れ替わった日でした。
上がったのは「AIを動かす側」だった
Mag7の外側で何が起きていたか。決算を出した会社の反応がはっきり答えています。
| 銘柄 | 前日比 | 中身 | |---|---|---| | Nebius(ネビウス) | +34.14% | 売上が前年比+454%。年末までに確保する電力を4GW→5GWへ引き上げ | | CoreWeave(コアウィーブ) | +19.50% | 売上$2.58B(前年比+112%)。受注残が$100B超 | | Lumentum(ルメンタム) | +13.9〜14.2% | 売上が前年比+109%。1株利益は+267% |
この3社が何をしている会社かというと、AIを動かすための土台を売っている会社です。CoreWeaveとNebiusはAI計算用のデータセンターを貸す商売、Lumentumはデータセンター同士を結ぶ光通信の部品を作っています。
(発表のタイミングを正確に書くと、Nebiusは8月12日、CoreWeaveとLumentumは8月11日の引け後発表で、今日はその反応が出た日でした)
セクター別(業種ごとの騰落)を見ても同じ形が出ていました。上位に来たのはテクノロジー、資本財(工場や設備を作る会社)、公益(電力・ガス)、不動産。下位は一般消費財と通信サービスです。
データセンターを建てるには土地と建物と電気が要ります。資本財・公益・不動産が同時に上がるというのは、AIの物理的な裏側にお金が向かったということだと僕は読みました。
そして通信サービスという業種には、アルファベットとメタが入っています。ここが下から2番目でした。
整理するとこうです。AIから資金が降りたのではなく、AIの中で「使う側」から「供給する側」へ移った。
ただしこれは僕の読みであって、確認できていない部分があります。「Mag7から売った資金がそのままAIインフラ株に入った」ことを直接示すデータは持っていません。同じ日に片方が下がって片方が上がった、という事実があるだけです。同じ方向に見える2つの動きを、勝手に因果でつなぐのは危ないので、ここは仮説として置いておきます。
CPIは4つとも予想ぴったりだった
今日の21時30分(日本時間)に7月のCPI(消費者物価指数=物の値段がどれくらい上がったかを示す数字)が出ました。
| 項目 | 実績 | 予想 | 前月 | |---|---|---|---| | 全体・前年比 | +3.4% | +3.4% | +3.5% | | 全体・前月比 | +0.1% | +0.1% | — | | コア・前年比 | +2.5% | +2.5% | +2.6% | | コア・前月比 | +0.2% | +0.2% | — |
(コア=値段の振れが大きい食品とエネルギーを除いたもの)
4項目すべてが予想と一致しました。こういう日は相場が動かないのが普通で、実際に指数はどれも±0.6%以内に収まっています。
ここで前提を1つ確認しておきたいのですが、今のアメリカは利下げを待っている局面ではありません。政策金利は3.50〜3.75%で、7月29日の会合では3人(クリーブランド、ミネアポリス、ダラスの各連銀総裁)が「インフレが5年以上も目標を上回り続けている」として利上げを主張して反対票を投じています。9月の会合について市場が見ているのは「据え置きか利上げか」で、利下げはほとんど織り込まれていません。
確率の具体的な数字は、ソースによって据え置き50%〜60%、利上げ38%〜60%とばらつき、一次ソース(先物市場の集計元)に到達できなかったので書きません。分かっているのは方向だけです。
つまり市場が身構えていたのは「利上げされるかどうか」で、CPIが予想を超えなかったことがその警戒を薄めた。VIX(相場の不安の大きさを示す数字)が14.55まで下がった(-4.78%)のは、それと合っています。
この前提を取り違えると、同じ数字から真逆の結論が出ます。今日データを集めていて「CPI後に利下げ確率90%」という記述をいくつか見かけたのですが、政策金利の水準とも会合の投票結果とも噛み合わないので採用しませんでした。「アメリカ=利下げ待ち」というのは去年までの話で、今の前提ではありません。
今日の迷い・判断メモ
迷い①:「資金が移動した」と書いていいのか
Mag7が6社下がって、AIインフラ株が+34%や+19%で上がった。この2つを見たとき、最初に浮かんだのは「Mag7を売った金がこっちに来た」という文章でした。読み物としてはこれがいちばん分かりやすい。
でも一度手を止めました。僕が持っているのは「同じ日に、片方が下がり、片方が上がった」という事実だけです。誰がどこからどこへ資金を動かしたかを示すデータ(フローの実測)は見ていません。上がった側は決算という自分の材料で上がっていて、Mag7の下落とは無関係かもしれない。
判断:本文では「配分が移ったように見える」という書き方にとどめ、仮説であることを明記しました。断定して書いたほうが記事は締まるのですが、後で間違いだと分かったときに、どこが間違っていたのか自分で追えなくなります。
迷い②:スーパーマイクロを仮説②の証拠にするか
売上は予想未達なのに、1株利益が大幅超え+来期の見通しが強気で+13〜14%。前回立てた「見通しが株価を決める」という仮説にぴったり当てはまる動きでした。使いたい誘惑がありました。
でも発表タイミングが8月11日の引け後だったという情報があり、今日の反応なのか前日からの続きなのか切り分けられませんでした。
判断:数えないことにしました。仮説の検証は「何例目か」を数えることに意味があるので、帰属日が曖昧なものを1例に入れると、数え自体が信用できなくなります。1例増やす誘惑より、数えの正確さを取りました。
説明できなかった1社
今日いちばん腑に落ちなかったのがシスコです。
決算の中身は良いものでした。売上$17.3B(前年比+18%)、1株利益$0.97(予想$0.87を上回る)、AI関連の受注が通期で$9.3B。今日買われた「AIの供給側」という文脈にそのまま乗る内容です。実際、通常の取引時間は$123.88のプラスで終えています(上昇率はソースによって+2.5%〜+2.9%と差があり、一本化できませんでした)。
ところが取引終了後の時間外で、$118.11(-4.66%)まで売られました。
複数の記事を読みましたが、どれも「好決算にもかかわらず」と書くだけで、理由を特定できていません。僕も分かりませんでした。
分からないものを「たぶん利益確定でしょう」と埋めることはできます。でもそれは説明ではなく、説明の形をした空欄です。今日は分からないまま記録して、明日の観測ポイントに回しました。時間外は参加者が少なくて値が振れやすいので、明日の通常取引でどこに落ち着くかを見れば、少なくとも「一時的な振れだったか」は分かります。
自分なら何を確認してから動くか
今日のような日に、僕が確認する順番です。
1. 指数の数字より先に、中身の内訳を見る ナスダック+0.54%だけ見て「テックが買われた」と記録すると、Mag7が1勝6敗だった事実が消えます。指数はあくまで合計値で、合計が同じでも中身は毎回違う。8月11日は「S&P500の下げの3分の2がアルファベット1社」、8月12日は「Mag7総崩れなのに指数プラス」。2日連続で、指数と中身が逆を向いていました。
2. その日の「前提」が去年と同じか確認する 利下げ待ちなのか利上げ警戒なのか。ここを取り違えると、CPIという同じ数字から真逆の解釈が出ます。政策金利の水準と、直近の会合で誰が何に反対したかを見れば、前提はすぐ確認できます。
3. 出典に到達できたかどうかで、書く/書かないを分ける 今日は金利のうち8月11日分は公式データに到達できたので書き、8月12日分は公表が1日遅れで未確定なので書きませんでした。原油も、ソースによって$78〜$83とばらついたので数字を書いていません。待てば取れるものは、待つ。
4. 説明できない動きは、説明できないまま残す シスコのように文脈と逆を向いた1件は、無理に解釈せず観測ポイントに回す。埋めた瞬間に、それは検証できない記述になります。
明日の観測ポイント
次の取引日は8月13日(木)。PPI(企業間で取引される物の値段の指数)と新規失業保険申請件数が出ます。
① 仮説: 8月12日の物色は「AIを使う側」から「AIを供給する側」へ移っており、これは一日限りのイベント反応ではなく数日続く トリガー: 8月13日もMag7が総じて弱い一方、AIインフラ関連(CoreWeave、Nebius、Lumentum等)が指数を上回る → 配分の変化として確定 無効条件: Mag7が揃って戻し、前日の上昇銘柄が反落する → 8月12日は決算という一日限りのイベント反応だった → 僕のルール:決算日に大きく動いた銘柄は、翌日の値動きまで見てから「流れ」と呼ぶ。発表当日の反応だけでは、イベントなのかトレンドなのか区別できない
② 仮説: シスコの時間外-4.66%は、好決算でも「AI受注の規模が期待に届かない」と判断された結果である トリガー: 8月13日の通常取引でシスコが時間外の水準($118近辺)から戻らず、下落が定着する → 内容への評価だったと確定 無効条件: 通常取引で$123近辺まで戻す → 時間外の薄い商いによる一時的な振れだった → 僕のルール:時間外の値動きは、翌日の通常取引で確認が取れるまで「結果」として記録しない
③ 仮説: 今の局面の金利は「利下げ待ち」ではなく「利上げ警戒」で動いており、CPI後も9月の会合はコイントスのまま トリガー: 8月13日のPPI(予想は前月比+0.1%、コア+0.2%)が予想を上回った時に、利上げ確率が45%から上振れする → 市場がまだ利上げを見ていると確定 無効条件: PPIが上振れても確率が動かない → 市場はすでにPPIを判断材料から外している → 僕のルール:金利の前提は「今どっち方向を警戒しているか」で毎回確認する。去年の常識をそのまま持ち込まない
明日この仮説がどうなったか、また振り返ります。
今日の3語メモ
-
「1勝6敗でもプラス」:Mag7は7社中6社が下落。それでもナスダックは+0.54%。指数の変動率は、その指数を代表する銘柄の状態を教えてくれない。8月11日は「下げの3分の2が1社」、8月12日は「主力総崩れなのにプラス」。2日連続で、指数と中身が逆を向いた
-
「上がったのは下請け」:Nebius+34%、CoreWeave+19.5%、Lumentum+14%。買われたのはAIを使う側ではなく、計算資源と電力と光通信を供給する側だった。資本財・公益・不動産が上位に並んだのも同じ絵の一部
-
「書かずに待ったら取れた」:前回は金利の一次ソースに到達できず、方向すら書かなかった。今日FRBの公式データで8月11日は10年債4.70%(-2bp)、2年債4.22%(-3bp)の低下と確認できた。推測で埋めていたら、この答え合わせは永久にできなかった
📩 AI内製化の実装ノウハウは別ブランドで発信中
Jiyonは「AIで相場をどう読むか」の試行錯誤の記録です。 事業や個人資産にAIをどう取り込むかを体系で学びたい方は、TSUMUGU(Hiro)のメルマガをどうぞ。 → https://be-sunao.com/tsumugu/
この記事はjiyon(@jiyon_kizuku)の相場振り返りシリーズです。 投資判断は自己責任でお願いします。データは2026年8月12日時点のものです。
主要指数5系列(ダウ・S&P500・ナスダック・ラッセル2000・VIX)は「前営業日終値±前日比=当日終値」の検算を通過し、TradingViewの実測データとも独立に整合しています。金利は米連邦準備制度の公式統計(H.15)で8月11日分まで確認、8月12日分は公表が1営業日遅れるため記載していません。CPIはBLS公式ページに到達できず、報道3社以上の一致による記載です。
本日取得できなかったもの:Fear & Greed指数(提供元が地域制限)、値上がり/値下がり銘柄数と出来高、WTI原油の確定終値(ソース間で$78〜$83と幅)、期待インフレ率、-5%以上下げた銘柄の特定。セクター別騰落率は2つのソースで絶対値に差があるため、上位・下位の顔ぶれのみを記載しています。
収集の過程で、日付を跨いで数字が混同された記事を2件確認し、除外しました。1件は8月11日の終値を8月12日として提示したもの(同記事は8月12日を「火曜」と誤記/実際は水曜)、もう1件はダウの前日比の符号が逆になっていたものです。後者は検算(前日終値+前日比=当日終値)が合わないことで気づきました。
公開前の検証で修正した箇所:CoreWeaveとLumentumを「今日決算を出した会社」と書いていましたが、実際は8月11日の引け後発表で今日はその反応が出た日でした(スーパーマイクロを帰属日不明として除外しておきながら、この2社に同じ基準を当てていませんでした)。シスコの通常取引の上昇率はソース間で+2.5%〜+2.9%と割れたため、終値$123.88のみを記載する形に改めました。9月の会合の確率は具体的な数字(据え置き50%/利上げ45%)を書いていましたが、ソースにより据え置き50〜60%・利上げ38〜60%とばらつき、集計元に到達できなかったため方向のみの記述に変更しました。セクター上位にテクノロジーを補記しています。
