今日の米国株は、指数だけ見ると「何も起きなかった日」に見える。S&P500はほぼ横ばい(−0.01%)、ダウは小幅プラス。でも中身は大きく割れていた。
震源は一つ。「メモリ(スマホやPCの中で記憶を担う半導体)の需要が逼迫している」というニュースだ。これが、メモリを作る会社の株を大きく上げた一方で、メモリを買って製品に組み込む会社(AppleやMicrosoft)の株を大きく下げた。同じニュースが、立場によって正反対に効いたのが今日の核心だと思う。
前日の引け後にマイクロン・テクノロジー(米国の大手メモリメーカー)が好決算を出していて、その余韻が一日中続いた格好だ。
前回の仮説チェック
前回(6/24)に立てた3つの仮説を答え合わせする。
仮説①: マイクロン+13.88%(時間外)でハイテク主導の反発、ただしコアPCE+2.9%以下が条件 トリガー: MUがギャップアップ+コアPCE前年比+2.9%以下 → ナスダック+1%以上 結果: ⏳半分否定。マイクロンは+17.35%とギャップアップしたが、コアPCEは前年比+3.4%と「条件の+2.9%以下」を大きく上回った。ナスダックは+1%どころか−0.46% 学び: 「MU単体では動かない」と書いた自分のルールはそのまま確認された。マイクロンは17%上げても、指数を上には引っ張れなかった。カタリスト(きっかけ)が強くても、1社では地合いを変えられない
仮説②: 原油$70割れが板につくと、エネルギー株−2%/日が常態化する トリガー: WTIが$70未満で2日連続クローズ → エネルギーETFが−1%以上を継続 結果: ❌否定。原油は$69〜70で4日続落したが、エネルギーセクターは逆に+0.73%だった 学び: 原油安=エネルギー株安、と単純には繋がらなかった。今日は景気敏感株全体が買われた流れの中で、エネルギーもその波に乗った。「商品(原油)の値段」と「その会社の株」は、必ずしも同じ方向に動かない
仮説③: 10年債が「PCE警戒で買われた」のなら、PCE通過後に4.5%まで戻る トリガー: PCEが予想通り以下 → 10年債4.45%に戻る 結果: ⏳前提が違う形で着地。10年債は4.45%まで戻ったが、PCEは「予想以下」ではなく「予想上振れ」だった 学び: 数字(4.45%)は当たったが、理由が逆だった。「予想を確認して安心したから戻った」のではなく「インフレが高止まりで利下げが遠のいたから」。結果が同じでも、中の理屈が違うと次の予想を間違える
主要指数
・S&P500 7,357.49(−0.73 / −0.01%) ・Nasdaq 25,358.60(−118.04 / −0.46%) ・NYダウ 51,920.62(+71.72 / +0.14%) ・ラッセル2000 3,007.86(+21.23 / +0.71%) ・VIX(恐怖指数) 18.6前後(前日からほぼ横ばい)
ダウと小型株(ラッセル2000)はプラス、ナスダックだけマイナス。これは「大型ハイテクが売られて、それ以外が買われた」という割れ方だ。VIX(投資家の不安度を表す指数。高いほど不安)は18.6前後で落ち着いていて、Fear & Greed指数(市場の強気・弱気を測る指標)は25〜28の「Fear(恐怖)」ゾーン。表面は静かなのに、心理は慎重という温度感が続いている。
相場を動かした3つのポイント
① マイクロン決算の余韻で、メモリ・半導体が一斉高
前日の引け後にマイクロンが出した決算が強烈だった。次の四半期の売上見通しが$49〜51Bと、市場予想を大きく上回った。「メモリが足りない、値段が上がっている」という需給の逼迫が、そのまま数字に出た形だ。これを受けてマイクロン本体は**+17.35%、同業のサンディスク+21.97%**、半導体の製造装置を作るアプライド・マテリアルズも約+4%と、メモリ周辺が軒並み買われた。
→ 僕のルール:決算サプライズの初日の急騰は追わない。誰でも買える初日より、2日目に押し目(一度下がったところ)で買われるかを見てから判断する。
② その同じメモリ高が、Appleを6%下げた
ここが今日の一番面白いところ。メモリが高くなって喜ぶのはメモリメーカーだけで、それを買って製品に組み込む側(AppleやMicrosoft)にとってはコスト増だ。Appleはこの日、Mac・iPad・Vision Proなどの値上げを発表し、その理由に「メモリチップの不足」を挙げた。結果、Apple −6.12%(直近1年超で最大の一日の下げ)。Microsoftもハードウェアの値上げを発表して**−3.80%**。同じ「メモリ逼迫」というニュースが、①では追い風、②では逆風として効いた。
→ 僕のルール:「良いニュース/悪いニュース」で覚えない。誰にとって良くて誰にとって悪いかをセットで見る。同じ事実が立場で逆に効くのを見落とすと、片側だけ見て判断を誤る。
③ マクロは「景気は強い、でもインフレも高い」を再確認
この日は経済指標がラッシュだった。GDP(国の経済の成長率)のQ1確定値が+2.1%と前回推計(1.6%)から上方修正、失業保険の新規申請も215Kと予想(225K前後)を下回り、景気と雇用は底堅い。一方でコアPCE(FRBが最も重視するインフレの指標)は前年比+3.4%と高止まり。景気は強いけどインフレも下がらないので、利下げ(金利を下げて景気を後押しすること)は遠のいたまま、という状況だ。
→ 僕のルール:「景気が良い=株高」と短絡しない。景気が良すぎてインフレが下がらないと、利下げが遠のいて株には逆風にもなる。良い指標を素直に喜ぶ前に、金利への跳ね返りを確認する。
セクターの強弱——「何が買われて、何が売られたか」
買われたのは資本財(+1.63%)・ヘルスケア(+1.39%)・素材(+1.24%)・エネルギー(+0.73%)。売られたのは一般消費財(−1.56%)・通信(−1.04%)・ハイテク(−0.19%)。
つまり、大型ハイテクから、景気敏感や昔ながらの業種(バリュー株)へお金が移った一日だ。ラッセル2000(小型株の指数)が+0.71%だったのも、この「ハイテク以外が買われた」流れと合っている。
Mag7(超大型テック7社)の動き
・Apple −6.12%(値上げ発表が直撃) ・Microsoft −3.80%(同じく値上げ発表) ・Meta −2.65% ・Amazon −2.41% ・NVIDIA −1.86% ・Alphabet(Google)−0.30% ・Tesla −0.11%(ほぼ横ばい)
7社全部がマイナス。特にAppleとMicrosoftの下げが目立つ。ナスダックがマイナスだったのは、ほぼこの2社の重さで説明がつく。
個別株で目立った動き
・Bio-Techne +20.09%:独メルクKGaAから総額約$113億の買収提案を受けた(買収されると株価がプレミアム付きで上がりやすい) ・Qualcomm +7.9〜11%:AI向けデータセンターの新製品を発表+Metaとの契約 ・Caterpillar +5.28%:AIデータセンターの電源向けに大型受注 ・SanDisk +21.97%:マイクロン決算を受けたメモリ全体の連れ高
面白いのは、上がった理由がバラバラなこと。M&A(買収)、AI関連の新製品、メモリの連れ高。今日は「テーマ一色」ではなく、個別の材料で動いた銘柄が多かった。
マクロ環境(大きな経済の流れ)
・米10年債利回り 4.45%(2日連続で低下) ・米2年債利回り 4.16% ・ドル円 161.84(円安水準が継続) ・WTI原油 約$69〜70(4日続落、$70割れに接近) ・金(ゴールド) $4,039(高値圏を維持)
経済指標の結果 ・GDP Q1(確定値):+2.1%(前回推計+1.6%から上方修正) ・コアPCE(5月・前年比):+3.4% → 高止まり ・新規失業保険申請:215K(予想225K前後)→ 雇用は強い
CME FedWatch(市場が予想する利下げ確率を見るツール)では、7月の据え置き確率が約89%。原油安はインフレを冷ます方向だけど、コアPCE3.4%の高さが利下げのハードルを上げている、という綱引きの状態だ。
テクニカルで見る今の位置
主要なETF(複数の株をまとめた商品)と個別株の、チャート上の位置を整理する。
・S&P500(SPY):RSI 46.5(中立。買われすぎでも売られすぎでもない)、MACDはデッドクロス接近(下向きのサイン)、移動平均線の上は維持 ・Nasdaq(QQQ):RSI 50.0(中立)、MACDは弱含み ・Apple(AAPL):RSI 32.2(売られすぎの一歩手前)、MACDは下向き確定 ・Microsoft(MSFT):RSI 28.7(売られすぎゾーンに突入)
気づいたのは、指数(SPYやQQQ)は中立でまだ底堅いのに、AppleとMicrosoftだけがRSI30前後の「売られすぎ」まで沈んでいること。指数の静けさと、一部の大型株の急落の落差が今のチャートの特徴だと思う。
※テクニカル分析はTradingViewのデータに基づく。投資判断は自己責任で。
全体像:同じ震源が、時間差で逆向きに効いた日
今日を一言でまとめると「メモリ逼迫という一つの震源が、立場で逆向きに効いた日」だ。前日のマイクロン決算でメモリ・半導体は買われ(マイクロン+17%、サンディスク+22%)、ところが同じメモリ高がコストとしてAppleとMicrosoftを直撃し、値上げ発表→急落を招いた。結果、ナスダックはこの2社の重さでマイナス、対照的にダウ・小型株・資本財はプラスで、ハイテクから景気敏感へお金が移った。
こういう相場で僕が意識しているのは、「良いニュース・悪いニュース」で覚えず、誰にとって良くて誰にとって悪いかをセットで見ること。マイクロンの好決算は、メモリメーカーには花丸でも、Appleには値上げを迫るコスト増だった。一つのニュースの裏表を両方見られるかどうかで、相場の解像度が変わる気がしている。
今日の迷い・判断メモ
迷ったポイント: マイクロンが+17%した時、「メモリテーマに乗るべきか、それとも急騰しすぎで危ないか」で頭が止まった。半導体全体が連れ高していて、乗り遅れた感もあった。
結局どう考えたか: 自分のルール通り「初日の急騰は追わない」を守って、何もしなかった。理由は、決算翌日の初日はニュースで誰でも買えるから、本当の強さは2日目以降の値動きでしか分からないと思っているから。
後から振り返って: 今のところ判断は維持。ただ、Appleの−6%を見て「メモリ高はメモリメーカーだけの追い風じゃない」と後から気づけたのは収穫だった。もしマイクロンに飛びついていたら、Apple側のコスト増という裏側を見落としたまま「半導体最高」とだけ思い込んでいたはず。急いで動かなかったから、両側を観察する時間ができた。
自分なら何を確認してから動くか
- マイクロンが翌日も陽線(上昇)を維持するか。寄り天(寄り付きが高値で後は下がる)でマイナス転換するなら「材料出尽くし」のサインとして見る
- AppleがRSI30前後の売られすぎから反発する時、出来高(売買された量)が伴っているか。出来高なしの反発は戻り売りに飲まれやすい
- 10年債利回りが4.40%を割るか4.50%に乗るか。原油安(インフレ鎮静)と高コアPCE(インフレ粘着)のどちらが勝つかの目安にする
明日の観測ポイント
「予測」ではなく「仮説+トリガー+無効条件」で書く。明日この答え合わせをするのが、自分の振り返りの軸になる。
① 仮説: Apple・Microsoftの売られすぎ(RSI30前後)が自律反発する トリガー: 寄りでAppleが+2%以上リバウンド、メモリ価格の続報が出ない → ハイテク反発でナスダック+0.5%以上 無効条件: 他のデバイスメーカーが追随値上げ/メモリ先物が続伸 → Appleが戻り売りで安値更新 → 僕のルール:RSI30割れは「反発しやすい」けど「下げ止まり」ではない。反発の初動より、戻したところで売られないかを見てから考える。
② 仮説: メモリ・半導体物色(マイクロン等)が決算一巡後も続く トリガー: マイクロンが+17%の翌日も陽線を維持 → 半導体テーマ継続 無効条件: マイクロンが寄り天で前日比マイナス転換 → 「材料出尽くし」で半導体全体が利益確定 → 僕のルール:初日の急騰は誰でも買える。2日目に押し目で買われるかどうかが、テーマの本物度を測る試金石。
③ 仮説: コアPCE3.4%を確認した後、長期金利は原油安に引っ張られて低下する トリガー: 原油$70割れが定着 → 10年債が4.40%割れ 無効条件: コアPCE高止まりを嫌気 → 10年債が4.50%乗せ → 僕のルール:原油安(インフレ鎮静)と高コアPCE(インフレ粘着)の綱引き。どちらに振れたかで、来週の雇用統計・CPIの受け止め方が変わると考えている。
明日この仮説がどうなったか、また振り返る。気になることがあればコメントで。
今日の3語メモ
- 「メモリ逼迫」:今日の震源。一つのニュースだけど、メモリメーカー(マイクロン)には追い風、デバイスメーカー(Apple)にはコスト増の逆風。立場で逆に効く典型例として覚えておく
- 「Apple −6%」:直近1年超で最大の下げ。理由は業績悪化じゃなく「値上げ発表」。値上げ=強気にも見えるけど、コスト増を価格に転嫁せざるを得なかった、と受け取られた
- 「景気強い×インフレ高い」:GDP上方修正+失業申請低下で景気は強いのに、コアPCE3.4%でインフレも高い。利下げが遠のく組み合わせ。良い指標を素直に喜べない相場の理由
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