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「AIで人を減らせる」は短期だけ本当だった──ある開発現場の発表資料を、中小企業の採用に翻訳する

・約12分で読めます

「AIで人を減らせる」は短期だけ本当だった

先日、AI駆動開発のカンファレンスで公開されたある登壇資料を読みました。KDDIアジャイル開発センターの吉田祐樹さんが2026年7月31日の「AI駆動開発Conference Summer」で発表した「Building Strong Teams in the Age of AI」というスライドです。

出典:Building Strong Teams in the Age of AI(Speaker Deck)

全88枚のうち、僕が長く手を止めたのは中盤の数枚でした。開発会社の話なので、そのままだと採用支援の現場とは関係がなさそうに見えます。でも読み終えて思ったのは、この資料の芯にある問いは、僕が中小企業の採用にAIを入れるときに毎回ぶつかっているものと同じだということでした。

今日はその翻訳作業をやります。


4枚で完結している、いちばん誠実な反論

資料の中盤は、こういう順番で進みます。

まず「AIの力でチームを縮小出来る、これは事実だよね?」と、多くの人が思っていることをそのまま置く。次のページで「そうとも限らない」と受ける。そして、AIを最大限うまく活用できたときに人数を1/3にできる、と仮定を立てます。

そのあとに来るページに、こう書いてあります。

現実的にあり得るかは置いておいて偉い人達が考えているのはきっとこういうこと

添えられているのは、18人のチームが6人になる図です。

ここで終わらないのがこの資料の良いところで、次に「本当に出来ますか?」と問い、その答えとして

(理論的には)この6名がめっちゃ有能なら短期的には恐らく出来ます

と、いったん認めます。

そして次の1枚。

そのチーム、サステナブル(持続可能)ですか?

この4枚の運びが、僕は本当にうまいと思いました。

AI活用の話をしていると、「AIで人が減らせる」に対する反論は、たいてい2つのどちらかに寄ります。ひとつは「AIはまだそこまで賢くない」という性能の話。もうひとつは「人の仕事には温かみがある」という情緒の話。どちらも、聞き手が経営側だとほぼ効きません。前者は「じゃあ賢くなったら減らせるんですね」で終わるし、後者は数字の話をしている人には届かない。

この資料はそのどちらにも寄らず、「短期は成立する。問題は時間軸だ」という位置に立っている。だから強いんだと思います。反論ではなく、条件の追加になっている。


「減らす」の対象が、採用にはもう存在しない

さて、ここからが翻訳です。

開発チーム18人を6人に、という図には、そもそも18人がいます。減らす余地がある。でも、僕が入っている規模の会社では、採用まわりはすでに「1/3後」の状態から始まっています。

社員が2桁に満たない会社で、採用を専任で見ている人はまずいません。だいたいは代表か、総務や経理を兼ねている方が片手間で持っている。いわゆる「ひとり人事」ですらなく、「0.3人人事」みたいな状態です。

この前提だと、「AIで人を減らせるか」という問いは最初から成り立ちません。減らす人がいない。

じゃあこの資料は関係ないのかというと、逆でした。ここで効いてくるのは「人を減らす」ではなく、その次のページで出てくるこちらの主張のほうです。

人を増やしたら成果もスケールする仕組みを考える

これを採用の文脈に置き換えると、こうなります。

「採用にAIを入れた結果、採用に関わる人が代表1人のまま固定される設計になっていないか」

僕の実感では、これがいちばん危ない落とし穴です。理由を書きます。


AIを入れると、むしろ属人化が進むことがある

採用支援に入って、求人票の下書き、スカウト文、面接質問、媒体の選び方あたりをAIで回せるようにすると、たいてい最初の2週間で目に見えて速くなります。ここまでは順調です。

問題はその次に起きます。

AIとの対話は、基本的に個人の画面の中で完結します。 何を入力して、どの出力を採用して、どこを直したのか。その判断のプロセスは、誰にも見えないまま消えていく。残るのは完成した求人票だけです。

以前の会社なら、求人票は誰かに見せて「この表現どう思う?」と聞きながら作っていました。その会話が、たまたま判断基準の共有になっていた。AIが相談相手になると、その会話ごと社外に出ていってしまう。

結果、こうなります。

  • 出てくるアウトプットの質は上がる
  • でも、なぜそうしたのかを説明できる人は、社内に1人だけ
  • その1人が動けなくなると、質が元に戻るどころか、前より下がる

前より下がるのがポイントで、以前は「時間はかかるけど自分で書けた」のに、AI前提で回し始めると「AIなしで書く筋肉」が先に落ちるからです。

これは、資料が言っている「エースに依存しない意思決定の習慣」の話とまったく同じ構造だと思いました。開発現場では特定のエンジニアに判断が集中することを警戒している。採用の現場では、AIを使いこなせる1人が新しいエースとして生まれてしまう。属人化の解消のために入れたはずのAIが、属人化の新しい形を作る。


「持続可能ですか?」を、採用で問い直す3つの観点

じゃあ何をチェックすればいいのか。僕が支援先で見ている観点を3つに絞ると、こうなります。

① 判断の記録が残っているか

出力ではなく、判断が残っているかを見ます。

「この求人票は、誰に向けて書いたのか」「なぜこの見出しにしたのか」「前回から何を変えたのか」。この3つが、完成物とは別に1行ずつでも残っているか。

残っていない場合、3ヶ月後に応募が来なくなったときに打ち手が出ません。何を変えれば効くのかが分からないので、また最初から作り直すことになる。作り直しは速くできるようになったけれど、改善はできていないという状態です。速さと改善は別物です。

② 2人目が触れる状態になっているか

いま採用を回している人以外に、中身を触ったことがある人が1人でもいるか。

ここで大事なのは、2人目は「決める人」である必要がないということです。決裁は代表が持ったままでいい。必要なのは、プロセスを見たことがある人が他にいることです。

資料が紹介している「フィーチャーモブ」という運用は、顧客に届く価値をひととおり完結させる2〜3名のチームを、案件ごとに動的に編成するというものでした。全員が全体に触れるから、誰か1人が抜けても止まらない。

中小企業の採用にそのまま持ち込むのは無理があります。人数がいないので。でも、**「求人票を作るときに、1回だけ誰かに画面を見せながら作る」**くらいなら、どの会社でもできます。所要時間は30分も要りません。この30分が、6ヶ月後に効きます。

③ 責任を持つ主体がはっきりしているか

資料の前半に、DeNAの南場智子さんの発言が引かれていました。要旨は、AIは契約の主体にはなれない、約束をして責任を取る主体にはなれない。一方で組織にはそれができる。組織にしかできないのは「永続性」だ、というものです。

これを採用に置くと、かなり具体的な話になります。

応募者にとって、選考は人生の判断材料です。落とされた理由を後から聞かれることもあるし、入社後に「聞いていた話と違う」となることもある。そのときに説明する責任を負うのは、当然ながら会社です。AIではない。

だから僕は、支援先には毎回同じことをお願いしています。

AIは、要約と論点出しまで。落とす判断は人が持つ。

これは性能の問題ではありません。責任の置き場所の問題です。将来モデルの精度がどれだけ上がっても、この線は動かないと思っています。

(この線引きは、規制の側からも同じ結論に近づいています。EUのAI規制では、採用や候補者選考に使うAIが高リスクに分類されています。適用時期は延期されていますが、透明性の義務のほうは先行して動いている。まったく別々の場所から同じ着地点に来ているのが面白いところです)


「増やしたらスケールする」を採用に移すと、こうなる

ここからは、資料の後半で紹介されていた実践を、僕なりに採用の現場に翻訳してみます。原典は開発チームの運用なので、あくまで翻訳です。

設計8:実装2 → 「浮いた時間を、選考基準の議論に返す」

資料の中で、時間配分を設計8:実装2にしている、という話が出てきます。AIで実装の工数が圧縮された分を、そのまま設計の議論に充てているということです。

これは採用にそのまま移せます。

AIを入れると、求人票やスカウト文を作る時間は確実に減ります。問題はその浮いた時間をどこに戻すかで、ほとんどの会社は「別の作業」で埋めてしまいます。応募者対応、日程調整、媒体の管理。全部やらないといけないことなので、埋まるのは自然です。

でも、そこで埋めてしまうと、半年経っても採用は上手くなりません。

戻すべき先は、「どういう人を採るのか」の議論です。具体的には次の3つ。

  1. この職種で、絶対に外せない条件は何か(3つまで)
  2. 「歓迎」に書いているものは、本当に歓迎止まりか(必須が紛れていないか)
  3. 前回採った人と、今回採りたい人は、どこが違うのか

この3つは、AIに聞いても出てきません。会社の中にしかない情報だからです。AIが出せないものにだけ時間を使う、という配分にすると、資料の8:2と同じ形になります。

PR廃止 → 「AIを入れるときに、承認を増やさない」

資料でいちばん驚いたのは、モブ間でプルリクエストを廃止して、コンフリクトはその場の会話で解消し、mainに直接プッシュしている、という運用でした。開発をやっている方なら分かると思いますが、けっこう思い切った判断です。

意図は分かります。チェックの工程を足すのではなく、チェックが要らない作り方に変えている。

採用でAIを入れるときにも、同じ判断が要る場面があります。ありがちなのは、「AIが作ったものだから念のため代表が全部チェックする」というフローを追加してしまうこと。気持ちは分かるんですが、これをやると代表の確認待ちが新しいボトルネックになって、AI導入前より遅くなります。

ここでの正解は、チェックを足すことではなく、チェックが要る範囲を最初に決めておくことだと思っています。

  • 求人票の「必須条件」欄 → 必ず人が確認する
  • 待遇・労働条件の記載 → 必ず人が確認する(法令に関わるので)
  • 会社紹介や仕事の魅力の文章 → AIの出力をそのまま使ってよい

このように先に線を引いておけば、毎回の確認は数分で終わります。全部チェックするか、全部任せるか、の二択にしないことです。

フルサイクル → 「母集団づくりから定着まで、一本で見る人を置く」

資料の終盤に、育成の話が出てきます。印象的だったのは、価値の軸が「判断力」から「守備範囲の広さ」に移っている、という指摘でした。設計から運用まで全工程を経験して、その往復のなかで初めて、AIの出力を鵜呑みにしない見極めが育つ、と。

採用に移すと、こういうことになります。

採用の仕事は、社内でよく分断されています。求人を出す人、面接する人、入社後に面倒を見る人が、それぞれ別。この分け方をしていると、「採れたけど3ヶ月で辞めた」の原因が誰にも分かりません。求人票の書き方が悪かったのか、面接で盛りすぎたのか、入社後の受け入れが薄かったのか、切り分けられないからです。

僕が支援に入るときに、採用だけでなく定着までをスコープに入れているのは、この理由です。採れて終わりにすると、次の採用が上手くなる材料が手に入らない。

小さい会社にとって、これはむしろ有利な条件です。人数が少ないぶん、最初から最後まで一本で見る人を置きやすい。大企業では分業になっている工程を、1人で通して見られる。「守備範囲の広さ」で戦うなら、規模が小さいほうが有利なんです。


現場でよく見る失敗3つ

翻訳の答え合わせとして、実際によく見る失敗を書いておきます。

失敗1:AIが書いた求人票を、直さずにそのまま出す

出てくる文章は、たいてい整っています。整っているから、直す気にならない。

でも整っている文章は、どの会社にも当てはまる文章でもあります。応募者は複数社を並べて見ているので、当てはまりすぎる文章は素通りされます。

AIの出力を「たたき台」として扱うなら、必ず1箇所は、その会社にしか書けない具体を入れる。仕事の内容でも、入社後の1日でも、社長の口癖でもいい。1箇所でいいので入れる。ここを守れるかどうかで、応募数がはっきり変わります。

失敗2:浮いた時間を、別の作業で埋める

さっき書いたとおりです。作業で埋めると、来年も同じ場所にいます。

対策は簡単で、AIを入れる前に「浮いた時間で何をやるか」を先に決めておくこと。決めていないと、必ず作業で埋まります。人はそういうふうにできているので。

失敗3:AIを使える人が1人だけ生まれる

これがいちばん多くて、いちばん影響が長く残ります。

その1人が辞めたり、部署が変わったり、産休に入ったりした瞬間に、採用の質が元に戻る。しかも「戻る」ではなく「前より落ちる」ことが多いのは、さっき書いたとおりです。

対策は、②で書いた「2人目が触れる状態」の一点だけです。上手くなる必要はない。見たことがあればいい。


今日から試せること3つ

支援先に最初にお願いしていることを、そのまま書きます。どれも30分以内で終わります。

1. 直近で作った求人票を開いて、「なぜこう書いたか」を3行で足す

ファイルの末尾でも、別のメモでもかまいません。誰向けか、何を変えたか、次に何を試すか。この3行が、次回の出発点になります。

2. 採用に関わる作業を、「AIに任せる」「人が決める」の2列に分ける

紙1枚で十分です。項目は10個も出れば足ります。ここで線を引いておくと、毎回の確認が数分で終わるようになります。ついでに、いま自分が何をやっているのかが可視化されます。

3. 次に求人票を作るとき、誰か1人に画面を見せながら作る

同席してもらうだけでいい。意見をもらう必要すらありません。プロセスを見た人が社内に2人になる、という一点だけが目的です。


まとめ

紹介した資料の主張を、僕なりに一行にすると、こうなります。

AIで短期的に人を減らすことは、たぶんできる。でもそれをやると、学びが止まって、次の変化に対応できないチームになる。だから減らす方向ではなく、増やしたときにちゃんとスケールする側を設計しよう。

これは開発会社の話として書かれていますが、中小企業の採用にはもっと直接的に効くと思っています。理由は単純で、すでに人が減った状態から始まっているからです。減らす余地がないところにAIを入れると、行き先は「1人に集約する」しかない。意図していなくても、放っておくとそうなります。

だから僕が支援に入るとき、目標に置いているのは「採用の工数を減らすこと」ではありません。代表以外の人が、採用の中身に触れられる状態を作ることです。工数はその結果として減ります。順番が逆になると、速くはなるけれど、続かない。

「そのチーム、持続可能ですか?」という問いは、人数の話ではなくて、判断が1人の頭の中だけにあるかどうかの話なんだと思います。

資料の最後は「Be a Change Leader」で締められていました。88枚を読み終えて残ったのは、AI活用の技術論ではなく、学び続けられる状態をどう組織側に用意するかという話でした。規模が小さいほど、これは自分たちで決められます。


参考

※本記事は上記資料の主張を出発点に、中小企業の採用支援という別領域へ筆者が翻訳したものです。引用箇所以外の解釈・事例は筆者によるもので、原典の主張そのものではありません。

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