Thinking×Hiro

「AI入れたら若手が考えなくなりませんか」——その心配は正しい。だから導入設計に"考える工程"を残す

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商談で、AI導入の話が具体になってきた終盤に、社長が少し声を落として聞いてくる質問がある。

「これ入れたら、若手が考えなくなりませんか」

これまで自分は、この質問に「そんなことないですよ、むしろ考える時間が増えます」と返してた。嘘は言うてない。実際、単純作業が減った分を判断に回せてる現場はある。

でも最近、返し方を変えた。**「その心配は、正しいです」**から入るようにした。

きっかけは、ある研究を読んだこと。そして読んだ結果、自分が今までいちばん大事な設計を口頭で流してたことに気づいたからや。

成人ですら、脳の働きが落ちてた

MIT Media Labのチームが、こういう実験をしとる。

参加者を3つのグループに分けて、同じ課題で小論文を書かせる。①AIを使って書く ②検索エンジンを使って書く ③何も使わず自分の頭だけで書く。書いてる間、頭に脳波計をつけて脳の活動を測り続ける。書き終わったら、自分が何を書いたか思い出せるかのテストもする。

結果は3つの層ではっきり分かれた。

文章の中身。AIを使った群の文章は驚くほど似通っとって、評価にあたった英語教師が「魂がない」と表現したと報告されとる。自分の頭だけで書いた群は、主張も論点もばらけて個性的やった。

記憶。書き終わった直後に「何を書いたか」を思い出すテストで、成績は ③自分の頭 > ②検索 > ①AI の順。AIを使った群は、たった今自分の名前で提出した文章の中身をうまく再現できんかった。

脳の活動。脳内ネットワークの結合は、自分の頭で書いた群が最も強く広がっとって、検索が中程度、AIを使った群が最も弱かった

ここで大事なのは、この参加者が18〜39歳の成人やということ。もう十分に考える力が育った大人が、AIを使って文章を書いただけで、脳の活動が下がって書いた内容を覚えていられんようになる。

(念のため書いとくと、この研究は査読前のプレプリントで、参加者は50人あまりと規模も大きくない。反論のコメンタリーも公開されとる。「科学が証明した」と言うつもりはない。ただ、成人ですらこうなるという一点は、実務の設計に効く)

社長の「若手が考えなくなりませんか」は、勘や。でもその勘は、たぶん当たっとる。

じゃあ使わせんのが正解か、というと違う

ここで「やっぱりAIは危ないんですね」と話が終わると、それはそれで最悪の結論になる。

使わせない会社で起きるのは「使わない」やない。**「上に見えんところで使う」**や。若手のほうが先に触っとるのは、どこの現場でもそう。禁止すると、いちばん指導が要る最初の時期に、いちばん指導できん状態になる。

つまり問題は、使うか使わないかやない

自分が読んだあと考え直したのは、こういう構造やった。

【土台】自分の頭で考えて、失敗して、直す経験
   ↓  ← ここを飛ばすと、土台そのものが育たない
【拡張】AIに任せて、できることを一気に広げる
   ↓
【自走】AIを使いこなしながら、最後の判断は自分で持つ

AIは増幅器や。元の信号が強ければ大きくなるし、弱ければ増幅されるのはノイズだけになる。同じ道具を渡しても、渡す相手によって伸びる方向が真逆になる。

自分がAIで仕事の量を何倍にもできたのは、AIが賢いからやない。それまで現場で自分の頭で考えて、外して、直してを繰り返してきた蓄積の上に乗せたから拡張になった。もし蓄積ゼロの状態で同じものを渡されてたら、たぶん「それっぽいけど中身のない提案書」を大量生産して、自分では気づかんまま終わってたと思う。

判断の単位は「人」やなくて「工程」

ここからが実務の話。

「若手にAIを使わせるか」を人単位で決めようとするから答えが出ん。同じ人でも、工程によって答えが変わる。

切る線は、ここやと思っとる。

| 工程の性質 | 扱い | |---|---| | 判断が要る(見積の落としどころ、採用の合否、クレームの一次対応方針) | 人が持つ。AIは論点出しまで | | 型が決まっとる(転記、整形、集計、初稿の骨組み) | 渡してええ | | 本人がまだ一度も自力で失敗してない領域 | まだ渡さない(ここが一番見落とされる) |

3つ目が肝や。

土台は成功体験やなくて失敗の経験で作られる。自分で考えて、外して、なんで外したかを考えて、直す。この一連が、頭の中に判断の基準を作る。

その領域で一度も自力で外したことがない状態でAIを渡すと、外す機会そのものが消える。AIが先回りして正解っぽいものを出してくるから、間違えられん。間違えられんということは、判断の基準が育たんということや。

新人に「まず自分で見積出してみ」と言うて、ズレたやつを一緒に直す時間。あれを飛ばして最初からAIに出させると、その子は一生「なんでこの数字なのか」を説明できるようにならん。

育っとるか、空洞になっとるかを見分ける3つの問い

とはいえ「土台があるか」は目に見えん。現場で使ってる手がかりを3つ書く。難しい観察は要らんくて、その業務の担当者に聞くだけや。

1. AIの答えにツッコミを入れられるか

AIが返してきたものを見せて「これ、どう思う?」と聞く。

「合ってると思います」しか返ってこんなら、その領域の土台はまだない。判断する材料を持ってないから、正しいかどうかを評価できん。この状態で任せきると、AIの出力がそのままその人の結論になる。

逆に「ここ、うちの取引先やとちょっと違う気がします」と引っかかりを言えたら、その領域には土台がある。違和感を言葉にできるのは、比べる基準が自分の中にある証拠や。

2. 自分の言葉で言い直せるか

AIが返してきた説明を読んだあと、画面を閉じて「今の、自分の言葉で説明して」と頼む。

言い直せんかったら、読んだだけで理解してない。さっきの研究で「自分が書いた文章を思い出せんかった」のと同じ状態や。手元に成果物はあるけど、頭には何も残ってない。

3. その領域で自力で失敗した経験があるか

いちばん本質的で、いちばん見落とされる。

「まだ一回も自分で外したことがない領域」には、まだAIを入れん。この線引きだけでも、現場の育ち方はだいぶ変わる。

「考える工程を残す」を設計に書く

ここまでが考え方で、実際の導入設計には次の3つを入れとる。

① 渡す前に予想を1行書かせる

いちばん簡単で、いちばん効く。何かをAIに投げる前に「予想でええから、答えはこうやと思う、を1行だけ書いて」と決めておく。

書いてから投げると、返ってきたものが「情報」やなくて「答え合わせ」になる。自分の予想とどこが違ったかを見る作業が発生する。この1往復が判断の基準を作る。たった1行を書かせるかどうかで、同じAIの使用が空洞化から学習に変わる。

② 出力に必ず1個ツッコミを入れさせる

AIが返してきたものに「なんかおかしいとこ、1個だけ探して」を義務にする。無理やりでええ。

なんでこれが効くかというと、探しにいく姿勢そのものが受け取り方を変えるからや。ツッコミを探しながら読むと、鵜呑みにできんくなる。慣れてくると、頼まんでも引っかかりを言うようになる。そうなったらその領域の土台はできとる。

③ 週に一度、AIを使わん時間をあらかじめ決める

業務でも曜日でもええ。「この工程だけは自力」と先に決めておく。その場の判断に任せると、忙しい日ほどAIに流れる。

これを罰やペナルティにせんのがコツ。「サボったから禁止」やなくて「筋トレの日」として置く。実際、機能としては同じや。負荷をかけんと筋肉は育たん。

この3つ、導入の提案書に工程として書く。口頭で「気をつけてくださいね」と言うだけやと、100%やらん。ワークフローの中に埋め込んで、初月のチェック項目に入れる。

ここで降りられるのが、差別化になっとる

この設計をわざわざ提案書に書くのは、丁寧さの話やない。ここが伝わるかどうかで、相手の警戒の解け方が変わるからや。

AI導入を売りに来る会社はだいたい「全部自動化できます」と言う。工数がこれだけ減ります、人がこれだけ浮きます、と。社長からしたら、その話は聞き飽きとる。そして半分疑うとる。

そこに「この工程は渡さんほうがええです。ここを自動化すると、3年後に判断できる人が社内におらんくなります」と言う人間が来ると、話が変わる。受注したい人やなくて、現実を見て止められる人として扱われる。

止められることが信頼になる、というのは採用支援でも同じ構造やった。求人票がどれだけ綺麗でも、入った若手が3ヶ月で辞める構造があるなら、先に直すべきは定着のほうや、と言う。直す対象を見誤らせんのが、伴走側のいちばんの仕事やと思っとる。

経営者に返している問い

最後に、これから商談で置いていこうと思っとる問いを書いとく。

その工程、いま社内で"自分の頭で考えて外した経験がある人"は何人いますか。

この問いに数字で答えられる会社は、AIをどこまで渡してええかを自分で判断できる。答えられん会社は、まずそこを見えるようにするところからになる。

AIを入れるか入れんかは、もう論点やない。どの工程を、どの順番で渡すか。ここを設計できる人が社内に一人おるかどうかで、3年後の差が出る。

そしてその一人は、外部のコンサルやない。社内の人間がなるべきや。自分の仕事は、その一人が育つまでの足場をかけることやと思っとる。


※ 本文で触れた研究は、MIT Media Labのチームが2025年に公開した、AI利用と脳活動・記憶の関係を調べた実験(arXivのプレプリント)。参加者は18〜39歳の成人54名で、子どもを対象にした研究やない。査読前の公開論文であり、反論のコメンタリーも出とる。本記事の「若手の育成」に関する部分は、この研究からの推論であって、研究が示した事実やない。

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