前回(触れるAIの街、深圳 #1)では、「中国のAIは研究フェーズじゃなく、もう触れる・もう乗れる段階に来とった」という総論を書いた。今回はその核になった一次体験——完全無人L4タクシーに10分乗った話を、AI内製化の実務に効く部分まで掘り下げる。
7元で乗れる完全無人L4の衝撃
前海桂湾駅のE出口で配車アプリを叩くと、4分後・2.4km先からPony.aiの白いGAC AION Vが滑り込んできた。運転席は空っぽ。Bluetoothのオートアンロックで自動で鍵が開き、車内のディスプレイには走行ルートと周囲認識の状況がリアルタイムで表示されている。
乗ってる10分間、率直に言うと「人間が運転してるのと体感差がない」。むしろ加減速の繋ぎは滑らかだったかもしれない。発進、信号停止、合流。どれも"AIだから不安"という瞬間が一度も来なかった。
そして料金。割引クーポンを噛ませて7元(約150円)。普通のタクシーが20-30元する区間で、缶ジュース1本水準の値段で完全無人L4が乗れる。これは「もう実用化されてる」という以前に、国が普及フェーズの価格政策を打ってる証拠やと思う。
降りた後、自分の中に残ったフレーズはこれだった:
「外国人が運転してるのと、ロボットが運転してるの、変わらないな」
中国語が分からん外国人ドライバーのタクシーに乗るときと、心理的ハードルがほぼ同じ。これは二次情報を100本読んでも絶対に出てこない、体に通した言語化やと思う。
"AIで人を消す"ではなく"併用でスループットを上げる"
このL4体験と同じくらい効いたのが、深圳に着いた瞬間の入国審査だった。
現場に立っとった職員は、AI翻訳端末を併用しながら業務してた。職員が消えたわけやない。職員が、AI端末を道具として、外国人とのコミュニケーションを倍速で回してた。駅員も同じ構図で、翻訳AI端末を当たり前に持ってた。
日本のAI議論は「AIで仕事が奪われる/奪われない」の二択になりがちやけど、深圳の現場は最初からその二択を取ってない。人+AIでスループットを上げる——これが入国審査から自動運転まで、街全体の設計思想として一貫してた。
完全無人L4ですら例外じゃない。運転席に人はおらんけど、車両管制側には人がおる。アプリ側のサポートも人。フリート全体で見ると、人を消す方向じゃなくて、人1人あたりの管轄車両数を増やす方向にAIが効いてる。
中小企業のAI内製化に翻訳する
ここからが、地方中小企業の現場に持ち帰る話。
採用AIの内製化を始める会社で、毎回出てくる質問がある。「AIで採用担当を減らせますか」。深圳の現場を見てきた今、はっきり言える。減らす方向に設計した瞬間に失敗する。
成功してる現場の設計はこっちや:
- 応募書類処理は1次仕分けをAIに任せて、採用担当は2次判定と面接設計に時間を寄せる
- 求人票のドラフトはAIに殴り書きを出させて、現場マネージャーは赤入れと最終判断に集中する
- 面接フィードバックの構造化はAIに型化させて、人事はその先の意思決定とフォロー面談に時間を使う
この3つに共通するのは、「AIが入った結果、人が今までやってなかったより価値の高い仕事に時間を寄せられる」設計になってること。深圳の入国審査と完全に同じ構造や。
逆に「AIで人を1人減らす」を目的に置いた瞬間、現場は協力しなくなる。当たり前で、自分の仕事を奪う道具を一緒に育てる人間はおらん。中小企業ほど、この心理的設計をミスると一発で内製化が止まる。
"触れるAI"が突きつけてくる経営の問い
深圳から帰って一番考えてるのは、自分の事業領域で「もう触れる」段階のAIをどこまで現場に持ち込めてるかという問い。
L4タクシーは10分乗れば「これが普及したら楽になる」を全員が体感できる。実装は研究室を出てる。一方、日本の中小企業の採用現場で同じレベルの"触れるAI"を作ろうとすると、ほとんどの会社が「とりあえずChatGPT契約しました」で止まってる。
両者の差は、技術力やない。「触らせる仕組み」を経営側が設計してるかどうかやと思う。中国は国家戦略レベルで「触らせる」を設計しとった。前海エリアそのものが、自動運転前提で都市を一から造成してた。
中小企業にこの規模の都市造成はできん。けど、自社の業務プロセスの中に「全員が週1で必ずAIに触る場面」を埋め込むことはできる。月次定点測定をして、誰がどれだけ使ってるかを見える化することもできる。社内で出た事例を週次で共有することもできる。
深圳が国家スケールでやってることの、企業スケール版。これがAI内製化の実装やと、現地の温度感で確信した。
次に書くこと
次回(#3)は、華強北電子街で「人が乗るサイズのドローンが普通に展示されとった」話から、ハードウェアAIの実装速度が日本のソフトウェアAI議論をどれだけ追い越してるかを書く予定。
9月のSF視察ではWaymoに同条件で乗って、料金・無人度・滑らかさ・国の補助金有無を直接比較する。米中AI現地比較シリーズは、その対称運用で全体を組み立てていく。
「触れるAI」を自分の体に通すと、AI内製化の議論が一段降りた地点から始められる。これが現地に行く一番の効用やと思う。

