今日の一言
AIを理由に人を増やしたり減らしたりした企業の割合が、大企業72%、中堅23%、中小11%という数字で出ました。
その差が可視化された同じ週に、Claudeの「共有チャット」がGoogle検索で引ける状態になっていた件が話題になっています。片方は数年かけて効いてくる話で、もう片方は今日5分で手を打てる話。順番としては、後者から片付けたほうがいいと思っています。
前回の答え合わせ(EU規制・Microsoft・補助金の続報)
前回(7/28)に挙げた「来週の注目ポイント」から、動いたものと動かなかったものを先に整理します。
✅ EU AI Actの透明性ルールに、Metaが署名を発表(7月28日)。AIが作ったコンテンツに印をつけるための任意の枠組み(実施規範)に、Metaが署名すると自社ニュースルームで表明しました。Googleは7月24日に同じ発表をしています。ただし欧州委員会による公式の署名企業リストは、7月29日時点でまだ出ていません。日本企業が署名しているかどうかも、公式・報道どちらでも確認できていません。
なおMetaは署名と同時に「ラベルや開示が乱立して利用者を圧倒し、提供側の規制対応も複雑になる事態は避けるべきだ」という留保をつけています。賛成しつつ釘を刺す、という形です。
⚠️ 前回書いた「延期はまだ採択されていない」を、いったん保留にします。EU AI Actの第50条2項(AIが作ったものに機械で読める印をつける義務)について、複数の法律事務所の解説が「EU理事会が6月29日に最終承認済み」「8月2日より前に世に出たAIは12月2日まで猶予、8月2日以降に出たものは即適用」と書いています。前回の僕の記述とこれは矛盾します。EU官報の原文にたどり着けていないので、確定するまで「延期された」とも「されていない」とも書きません。お客さんに聞かれたら「協議中の情報はあるが一次で確認できていない」と正直に返す、というのが今の状態です。
✅ Microsoftの「Project Perception」は8月3日にプレビュー開始で変わらず。ただし1点、前回の書き方を補正します。Microsoftの公式ブログ本文には**「中小企業向け」という記述は一切ありません**。エンタープライズ全般向けの内容です。前回「中小企業向けAIセキュリティ提案の実物確認ができる」と書いたのは踏み込みすぎでした。8月3日に実物を見てから、10〜50人規模に降りてくる余地があるかを判断します。
🔮 補助金の枠別上限額は、今日も取れていません。デジタル化・AI導入補助金の4次締切が8月25日(火)17時、交付決定予定が10月7日というスケジュールは事務局の公式サイトで再確認できました。ただし枠ごとの補助上限額は、中小企業庁の公式PDFが4日連続でアクセスできず、民間の解説サイトの情報しか取れていません。金額は載せません。締切まで4週間を切っているので、別の経路を探します。
🔮 プリンストン大学の「採用AIのバイアス」研究の原典は3日連続で特定できず。OpenAI公式サイトも4日連続でアクセス不可。どちらも数字は引用しません。
注目ニュース TOP3
① Claudeの「共有チャット」とArtifactsが、Google検索に並んでいた
何が起きたか:Claudeで「このチャットを共有」を押すと作られる公開リンクと、Artifacts(Claudeが生成する小さなアプリやコード)が、Google検索で引ける状態になっていました。Redditで指摘されて広がった話です。ITmediaによれば、拾えた内容には医療費や食べ物の好み、見積もりといった個人の情報が含まれていた例があるとのこと。
Anthropicの広報は「共有は利用者の管理下にあり、検索エンジンにチャットの一覧やサイトマップは提供していない。共有リンクは推測も発見もできず、本人が公開しない限り出てこない」とコメントしています。つまり**「本人がSNSや掲示板に貼ったから拾われた」という立場**です。TechCrunchによれば土曜に見つかり、月曜の朝に報道され、月曜の午後には同社のテスト検索で結果が返らなくなったそうです。何件が露出していたかは公表されていません。
なぜ重要か:原因がサービス側の設定ミスなのか、使う側の貼り付けなのかで、責任の所在は変わります。でも現場にとってはどちらでも結論が同じというのが、この話の本質だと思っています。
共有リンクは一度外に出たら、作った側のコントロールを離れます。しかもClaudeの共有はワンクリックで、「これは全世界に公開されます」という強い警告が出るわけでもない。「便利だから共有した」が「検索で引ける」に一直線でつながる導線が、まだ残っているということです。
→ 採用・中小企業への影響:10〜50人の会社で生成AIを業務に入れると、ほぼ必ず「他の人に見せたいから共有リンクを作る」が起きます。求人票のドラフト、応募者の評価コメント、面接メモ、給与テーブル。採用まわりは「共有したくなる情報」と「外に出たら終わる情報」がほぼ完全に重なる領域です。ここが他の部署と違うところ。
→ 個人の実務・副業への影響:副業でクライアント案件をAIに投げている人は、同じ手順で棚卸しを。特に危ないのはArtifactsのほうだと思います。作った小さなツールをそのまま共有リンクで渡す運用をしていると、中に書いたAPIキー(外部サービスにつなぐための鍵)や取引先の名前が、そのまま公開ページになっている可能性があります。
正直に書くと、僕もまだ自分の棚卸しを終えていません。この記事を出したあとに全部開いて確認して、何か気づきがあれば次回報告します。「共有リンク=限定公開」だと思い込んでいた期間が自分にもあったので、人のことは言えません。
② AIで人員を増減させた大企業は72%、中小は11%
何が起きたか:HR総研の「2027年&2028年新卒採用動向調査(6月)」(2026年6月1〜9日実施、有効回答277件)で、採用計画を「増やす」または「減らす」とした企業のうち、**「AI活用による特定業務・部門での人材の増強・削減がある」と答えた割合が、大企業72%、中堅企業23%、中小企業11%**でした。28卒についても、大企業の56%が「AIを導入・活用する採用業務が拡大していく」と予測しています。
なぜ重要か:この72%と11%の差は、「中小企業がAIを使っていない」という話ではありません。「AIを前提に人員計画を組み替えたかどうか」の差です。大企業の7割はもう、どの部門を増やしてどこを減らすかをAI起点で描き直している。中小の9割はまだ描いていない。
ここで効いてくるのが、同じ週に出たもう一つの数字です。フォワードの調査(20〜65歳の転職経験者・検討者337名、2026年6月実施)によると、AIが作ったスカウトメールについて、
- 「AIを手抜きではなく、自分を深く理解するために使うなら歓迎」43.0%
- 「自分のキャリアパス等について具体的に言及されていれば歓迎」39.2%
- 「自分の職務経歴書が正確に理解されている時は受け入れられる」35.6%
- 「どのような内容であっても受け入れられない」10.1%
全面拒否は1割しかいません。受け手の準備はもう終わっていて、出し手の中小企業側が追いついていない、という構図です。
→ 採用・中小企業への影響:「AIで採用を効率化しましょう」ではもう遅い、という数字だと思っています。刺さるのは「大企業の72%が人員計画をAI起点で組み替えている中で、うちはどの業務を誰に寄せるのか」という問いのほう。
ただ、11%側にいることが即「遅れ」だとは限りません。10〜50人の会社は部門の境界が曖昧で、そもそも「AIで削減できる部門」という単位が存在しないことが多い。大企業と同じ絵を描く必要はないんです。お客さんの現場を見ていても、組織図に線を引く議論より、業務を1つずつ棚に並べる議論のほうが動きます。
→ 個人の実務・副業への影響:転職を考えているなら、届くスカウトの質でその会社のAIリテラシーがだいたい測れる時代になりました。職務経歴書をちゃんと読んだ形跡があるスカウトは35.6%の人が受け入れると答えている。裏を返せば、読んでいない生成スカウトは即座に見抜かれます。
③ Copilot Coworkの国内実証が出てきた、「Claude比30〜40%のコスト」の中身
何が起きたか:Microsoft 365の中でユーザーに代わってタスクを自動実行するエージェント型AI「Copilot Cowork」について、7月27日にNTTデータ先端技術が「会議と議論の効率化に関する実証実験」の結果を公表しました。製品自体は6月16日(米国時間)に全世界で一般提供が始まっています。Outlookでのメール作成・送受信・会議設定、Word文書、Excel、PowerPoint、Teamsへの投稿、PDF作成などに対応し、カスタムスキルを最大50個まで作れるとのこと。利用にはMicrosoft 365 Copilot User Subscription License(USL)が別途必要です。
なぜ重要か:ここは確定と未確認をはっきり分けます。
✅ 確定:全世界での一般提供が6月16日に始まっていること。USLが別途必要なこと。カスタムスキル最大50個。国内企業の実証事例が出てきたこと。
🔮 未確認:「Claude Cowork比30〜40%のコスト」という部分。これはMicrosoft自身の主張で、しかも「プロンプト評価コストの比較テスト」という限定条件つきです。具体的な金額も、比較に使った作業内容も公開されていません。「4割安い」という見出しだけが独り歩きしやすい典型なので、提案書に転記するのは危険だと思っています。
ただ方向性としては、業務エージェントの競争軸が「性能」から「コスト」に移り始めた、という読みは取れます。
→ 採用・中小企業への影響:Microsoft 365をすでに使っている会社にとって、これは「新しいツールを増やす」ではなく「今あるライセンスに何を足すか」の話になります。ここが効くところです。
10〜50人の会社が生成AI導入でつまずく最大の理由って、ツールの性能じゃないんですよね。アカウントを誰が管理するか、請求先をどうするか、情シス担当がいない、この3つです。既存のM365テナントの中で完結するなら、それが同時に片付く。一方でUSLは別料金なので、コストは積み上がります。
→ 個人の実務・副業への影響:クライアントに提案する側なら、「ClaudeかCopilotか」を性能で語る時代はもう終わりかけていると感じます。お客さんがすでに払っているものの中で完結するかが、実際の採否を分ける。M365を使っている会社にClaudeを提案するなら、「なぜテナントの外に出す必要があるのか」を説明できないと通りません。
これ自体はまだ触れていないので、USLの実売価格が見えたら試して報告します。
AIツール・アップデート情報
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GitHub CopilotでGrok 4.5が使えるように(7月28日):最大50万トークン(AIが一度に読める文章量の単位)のコンテキストウィンドウ、画像入力対応、推論の深さを低/中/高で選択可。Enterprise・Businessはデフォルトで無効になっていて、管理者がポリシーを有効化する必要があります。→ 「導入したのに使われない」の原因が、ライセンスじゃなく管理者設定側にあるパターン。法人案件のキックオフでは、これをチェックリストに入れておくといいです。
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GitHub Copilotの利用ログがアプリ単位で取れるように(7月28日):誰がどれだけ使ったか(セッション数・リクエスト数・プロンプト数)がユーザー単位で紐づくようになりました。→ 伴走契約の月次レポートを、自作アンケートじゃなくツール側の実測ログで組めるようになる。ツール選定の基準に「利用ログが出せるか」を1列足すのがおすすめです。
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Cursorがインド向けに月額₹649のプラン(7月28日):インドのユーザーは過去1年で300万人超に増え、同社3番目の市場だそうです。地域別価格が当たり前になりつつある流れ。
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採用データ統合プラットフォーム「Saimo」(Reviv)(7月27日):歩留まりやチャネル別成果の可視化、AI書類選考、エージェント管理、スカウト管理、採用目標管理を1システムに集約。価格と対象企業規模は非公表。→ 内製で組むときの機能分解として参考になります。中小企業なら5機能を全部作らず、「歩留まり可視化」と「スカウト管理」の2つから始めるのが現実的だと思います。
AIが中小企業の採用・現場をどう変えるか(TSUMUGU視点)
今日のニュースから、ひとり人事の方が今日から試せることを2つに絞ります。
1. 生成AIの「共有リンク棚卸し」を全員で5分
Claudeなら「設定 → プライバシー → 共有チャット」。過去に作った公開リンクを一覧で見て、応募者情報・給与・取引先名が入っているものを消す。それだけです。
そのうえで、社内ルールに1行足してください。
応募者の氏名・連絡先・評価が入ったチャットは、共有リンクを作らずスクリーンショットで渡す
ツール選定より前に、この1行の有無で事故率が変わります。ChatGPTやGeminiを使っている会社も、共有機能の設定画面がどこにあるかだけは全員に周知しておくといいです。
2. 「うちはAIでどの業務を誰に寄せるか」を紙1枚に書く
大企業の72%がAI起点で人員計画を組み替えている一方、中小は11%。ここで焦って大企業の真似をする必要はありません。書くべきは部門単位ではなく業務単位です。
求人票のドラフト、スカウト文面の一次生成、面接日程の調整。この3つをAIに寄せるだけで、ひとり人事の時間が「面接と口説き」に戻ってきます。候補者の43%が「深く理解するために使うなら歓迎」と答えている以上、浮いた時間を候補者理解に使えるかどうかが分岐点になる。
逆に言うと、浮いた時間を別の作業で埋めてしまうと、AIを入れた意味がほぼ消えます。ここは何度でも言いたいところです。
個人の副業・実務への影響
Artifactsの共有リンクを確認する。Claudeで作った小さなツールを共有リンクで渡している人は、中にAPIキーや取引先名が埋まっていないか見直しを。「共有リンク=限定公開」は思い込みだった、というのが今日の教訓です。
提案の軸を「性能」から「お客さんが今払っているものの中で完結するか」に移す。Copilot Coworkの国内実証が示したのは、業務エージェントの競争軸がコストと既存契約への収まりの良さに移りつつあること。外部ツールを提案するなら、テナントの外に出す理由を先に用意しておく必要があります。
今日のまとめ:受け手の準備は終わっている
今日いちばん気になったのは、72%と11%の差そのものより、候補者側でAIスカウトを全面拒否する人が10.1%しかいなかったことでした。
「AIを使うと候補者に嫌がられるのでは」という不安は、もう実態と合っていない。嫌がられるのはAIを使うことではなく、読んでいないのに読んだふりをすることのほうです。43.0%が「深く理解するために使うなら歓迎」と答えている。条件は明確に示されているわけです。
そのうえで、Claudeの共有リンクの件が同じ週に来た。使い始めた瞬間に、情報の出口をどう閉じるかという問題が必ずセットでついてくる。アクセルの話とブレーキの話が同時に来るのが、今のフェーズなんだと思います。
順番としては、5分で終わるブレーキから。棚卸しを終えてから、紙1枚を書けばいいです。
来週の注目ポイント
① 8月2日(日)EU AI Actの透明性義務が適用開始 → あと4日。見るべきは2つに絞られました。欧州委員会の公式な署名企業リストが8月2日までに出るか。そして第50条2項の12月2日延期について、EU官報の原文を押さえられるか。後者が確定するまで、お客さんへの資料には書きません。
② 8月3日(月)Microsoftの「Project Perception」プレビュー開始 → 中小企業向けという記述は公式にないと分かったので、見るべきは「エンタープライズ前提の設計が、10〜50人規模に降りてくる余地があるか」。実物を触ってから判断します。
③ デジタル化・AI導入補助金の枠別上限額を、公式ソースで取る → 4日連続でアクセスできていません。8月25日の締切まで4週間を切っていて、金額が確定しないと提案に載せられない。別経路を試します。
AIは触ってみないと分かりません。今日の分は、まず自分の共有チャット一覧を開くところからで十分だと思います。
