「人事の人って、AIとか外注に仕事を渡すの、けっこう嫌がるんじゃないですか?」
これは、採用の内製化を提案するとよく返ってくる質問です。自分もずっと、そこに一番大きな壁があると思っていました。ところが7月1日に出た調査を見て、その前提が間違っていたかもしれない、と考え直しています。
今日は、人事の“本音”が数字で見えた話を中心に、GitHubとCloudflareの動きも合わせて、いつもの2軸——**中小企業の採用・人事(TSUMUGU軸)**と、個人の実務・副業(個人軸)——で整理していきます。
まず前回の予告を振り返る(検証ループ)
このシリーズでは、前回「来週の注目ポイント」に挙げたものを毎回チェックしています。7月1日分の3つはこうなりました。
- 🔮 AI導入補助金の第3次締切(7/21):追加通知は出ていません。締切は据え置き。ただ、申請に必要なgBizID(行政手続き用のID)の取得に2週間ほどかかるので、狙っている会社は今週中に準備を始めた方が安全です。
- 🔮 Claude Sonnet 5(Anthropicの新モデル)の実測ベンチ:無料・Pro向けの標準モデルとして展開された、という報道は出ましたが、第三者による性能実測の数字はまだ見当たりません。引き続き様子見です。
- 🔮 EU AI Act(EUのAI規制法)の官報掲載:正式な掲載はまだ確認できていません。AI生成物であることを明示する「透明性義務」は8月2日発動の見込みで据え置き。日本国内だけで使う分には、まだ急ぐ話ではありません。
「まだ動いていない」ことを確認するのも仕事です。焦って盛らないのが、このシリーズのルールにしています。
① 人事の81.3%が「定型業務はAIに任せる方が合理的」と答えた
7月1日、HRzineが報じた調査(発表元はゴウリカ)で、人事担当者の**81.3%**が「給与計算や書類作成などの専門的な定型業務は、専門家や外部ツール・AIに任せた方が合理的」と回答しました。
✅ 調査結果として出ている数字です。ただし対象は従業員1,000人以上の大企業に勤務する人事職1,020人——つまり、この数字がそのまま中小企業の人事にも当てはまるかは別問題です。むしろ「人繰りの厚い大企業の人事ですら8割が外部化を望んでいる」なら、人繰りの薄い中小の"ひとり人事"はもっと切実なはず、という推測として読むのが正確なところです。
同じ7月1日には、別の調査(レバレジーズ、28卒学生140名対象)で、2028年卒の22.9%が就職活動のスケジュールを前倒ししたという結果も出ています。「AIで新卒採用が厳選化・抑制される」という報道と時期が重なっていますが、前倒しの直接の引き金がAI報道だと断定できる根拠までは確認できていません。🔮 ここは「時期が重なっている」という事実にとどめておきます。
なぜこれが効くのか
自分がずっと「壁」だと思っていたのは、人事の抵抗感でした。でもこの数字が正しいなら、壁の正体は抵抗ではありません。**「任せた方が合理的だと分かっているのに、任せ方が分からない」**という状態です。
抵抗を説得するのと、やり方を教えるのとでは、必要なものが全然違います。前者には熱量が要りますが、後者に必要なのは手順です。8割が「合理的だ」と言っているなら、もう説得は要らない。あとは「じゃあ、どうやって?」に答えるだけです。
TSUMUGU軸への示唆(10〜50人の地方中小、ひとり人事の場合)
この調査自体は大企業の人事が対象ですが、求人票づくり・応募者への一次返信・面接質問の準備といった定型業務の重さは、むしろ人員に余裕のない10〜50人規模の「ひとり人事」の方が切実です。大企業でも8割が「任せた方が合理的」と言っているなら、中小の現場で同じ話をしたときに「うちだけの甘え」ではないと伝えられる、という使い方が正確なところです。
提案の入口で使うなら、「人事は抵抗しているのではなく、むしろ合理化を望んでいる」というフレームに切り替えると、話が通りやすくなります。ただし調査対象が大企業である点は、決裁者に見せる資料でも必ず注記してください。
🔮 提案書に載せる前に、発表元(ゴウリカ/レバレジーズ)の元リリースで数字と調査条件を必ず確認してください。二次報道だけで数字を独り歩きさせるのは、この仕事では地雷です。
個人軸への示唆(バックオフィス系の副業・受託)
企業側が「外部ツール・外部人材に任せた方が合理的」と考え始めているのは、バックオフィス系の副業をしている人には追い風です。刺さりやすいのは「AIに丸投げ」ではなく、**「AIでドラフト、人が仕上げる」**というハイブリッドの設計。たとえば求人票のたたき台をAIで作り、業界のニュアンスや自社らしさを人が足す、という形です。
② GitHub Copilotが7/1に大量更新——「画像を見せて頼む」が全プランで解禁
7月1日、GitHubがCopilot(コードを書く支援AI)まわりを一気に更新しました。中でも中小の現場に関係しそうなのが2つです。
✅ Copilot Visionが全プラン(無料含む)で一般提供に:画像やPDFを読ませて、それに対して指示を出せる機能です。追加設定は要りません。 ✅ オープンウェイトモデルのKimi K2.7がCopilotのモデル選択肢に追加:「オープンウェイト」というのは、モデルの中身がある程度公開されていて、特定の1社にロックインされにくいタイプのAI、というくらいの理解で大丈夫です。まずPro/Pro+/Maxから使えるようになり、Business/Enterpriseは管理者が有効化する必要があります(デフォルトはoff)。用途に応じてAIを選べる選択肢が増えた、ということです。
使ってみて感じたこと
「画像・PDFを読ませて指示する」使い方は、自分も採用まわりの資料整理で試しています。たとえば履歴書PDFを読ませて要点を箇条書きにさせる、手書きの応募メモをスキャンして整理させる、といった作業。エンジニアでなくても「画面を見せて頼む」だけで済むので、内製化の"最初の一歩"のデモとしてはかなり分かりやすいというのが実感です。
(※Copilot Visionそのものは開発者向けツールなので、実際に中小の現場に入れるときは、同じ「画像を読ませる」ができる汎用のチャットAIで代替することが多いです。大事なのは機能名ではなく「紙・PDFを人が打ち直さなくていい」という体験の方です。)
TSUMUGU軸への示唆
中小の採用現場には、まだ紙とPDFが残っています。履歴書、職務経歴書、手書きの面接メモ。ここを「人が打ち直す」から「AIに読ませる」に変えるだけで、ひとり人事の時間はけっこう浮きます。内製化の入口として、この体験から入るのはおすすめです。
個人軸への示唆
コードを書く副業層には直球の更新です。モデルの選択肢が増え、CLI(コマンドライン)が自動でモデルを振り分けるようにもなったので、タスクごとにコストと性能を使い分ける発想がそのまま経費削減になります。
🔮 なお、旧「GitHub Models」は7月30日で完全廃止が告知されました。使っている人は、今月中に移行先を確認しておくと安全です。
③ Cloudflareが「AIに課金する」インフラを解禁
これは少し先の話ですが、構造が変わる動きなので触れておきます。
7月1日、Cloudflare(世界中のWebサイトを支える大手インフラ企業)が、AIのクローラーやエージェントが自社サイトのコンテンツを読むときに、読んだ分だけ課金できる仕組みを発表しました。あわせて、2026年9月15日から新規にCloudflareへオンボードするドメインでは、広告を載せているページでAIの学習・巡回ボットをデフォルトでブロックする設定になります(オプトアウト可)。既存の登録済みサイトが自動でブロックに切り替わるわけではありません。
これまで「AIに読ませる=タダ」が当たり前でしたが、そこに値札が付き始めた、ということです。
2軸での意味
- TSUMUGU軸:直接の採用ネタではありませんが、「自社サイトや採用ページを、AI検索に載せたいのか、それとも守りたいのか」を選べる時代に入ります。クライアントのWeb戦略の前提が変わる話として、頭の隅に置いておきたい。
- 個人軸:AIエージェントを組んで外部サイトを自動で巡回している人は、9月15日以降に挙動が変わる可能性があります。逆に、自分のコンテンツを持っている発信者には、新しい収益源の芽になるかもしれません。
今日のまとめと、来週見ておきたいこと
今日いちばん大きかったのは、①の「人事の8割が定型業務のAI・外部化に前向き」という数字です。内製化を止めていたのは現場の抵抗ではなく、「合理的だと分かっているのに、やり方が分からない」という状態だった——そう捉え直すと、支援する側がやるべきことは説得ではなく、手順を渡すことに変わります。
来週見ておきたいのはこの3つです。
- 今日のHR調査の一次リリースと、後続の類似調査 — まずは81.3%・28卒前倒しの元データを確定させたい。TSUMUGUの提案の"数字の後ろ盾"を一次で固めるため。
- Cloudflare 9/15のAIボットブロック施行に向けた各社の動き — AIエージェント前提のサービス設計が変わる分岐点になるため。
- GitHub Models 7/30廃止に向けた移行の流れ — 開発基盤の乗り換えが実際どこへ向かうか、内製化支援の選定材料になるため。
数字が出たら、次はやり方の話です。そこは自分の現場でも試しながら、また報告します。

