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「将来やりたいことがない」は勉強しない理由じゃない。続かない原因だ——進路を一緒に発見する技術

「将来やりたいことがない」は勉強しない理由じゃない。続かない原因だ——進路を一緒に発見する技術

「うちの子、将来やりたいことが何もないみたいなんです」

保護者面談で、ここ数年いちばん多く聞く相談だ。

声のトーンには、たいてい少しの焦りが混じっている。「やりたいことがないから、勉強する目標もなくて」「だから机に向かっても続かなくて」。やりたいことの不在が、勉強しない言い訳になっている——多くの保護者は、そう感じている。

でも、9年間中高生を見てきて、僕はこの順番が逆だと思っている。

「やりたいことがない」は、勉強しないための言い訳じゃない。勉強が続かないことの、構造的な原因なんだ。

そして、この原因にはちゃんと手の打ちようがある。気合でも、根性でもなく、技術として。

この記事では、「進路を考える経験」が学習意欲をどう左右するのかを公的な調査データで確認したうえで、夢を問い詰めることなく、子どもの進路を一緒に掘り起こしていく具体的な方法を書く。保護者の方にも、中高生本人にも届く形で。


データが示す「進路を考える経験」と学習意欲の関係

最初に、感覚論ではなく数字の話をしておきたい。

東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所は、同じ親子およそ2万組を小1から高3まで10年間追いかける、大規模な縦断調査を続けている。「子どもの生活と学びに関する親子調査」というプロジェクトだ。

その2024年調査(2025年5月29日発表)の核心が、まさにここに関わる。「進路を深く考える経験」があるかないかで、学習意欲がはっきり分かれる、という結果だ。

「勉強しようという気持ちがわかない」比率

進路を深く考える経験の有無で、子どもたちを2群に分けて比べている。

| 学年 | 経験なし群 | 経験あり群 | |---|---|---| | 小4〜6 | 59.3% | 46.9% | | 中学生 | 68.1% | 61.2% | | 高校生 | 71.0% | 62.7% |

どの学年でも、進路を深く考える経験がある群のほうが、「勉強する気持ちがわかない」と答える割合が低い。差は10ポイント前後ある。

「勉強が好き」比率

裏側の「勉強が好き」でも、同じ傾向が出る。

| 学年 | 経験なし群 | 経験あり群 | |---|---|---| | 小4〜6 | 48.9% | 66.4% | | 中学生 | 32.3% | 44.4% | | 高校生 | 27.4% | 40.9% |

中学生で見ると、経験なし群の「勉強が好き」は32.3%なのに対して、経験あり群は44.4%。12ポイントの差だ。

つまり、進路を深く考えた経験のある子のほうが、勉強への向き合い方が前向きになりやすい。これが、約2万組を10年追った調査から見えてきた構造だ。

数字を並べてはみたが、ここで強調したいのは順位でも平均でもない。「進路を考える経験」が、学習意欲という個人の動力源に効いているという、その一点だ。


「やりたいことがない」の正体——早く夢を決めることが正解じゃない

ここで、多くの保護者がやってしまう誤解を解いておきたい。

このデータを見ると、「じゃあ早く将来の夢を決めさせなきゃ」と思いがちだ。でも、同じ調査はその逆を示している。

同じ2024年調査には、こういう結果がある。小5から高2まで、同じ種類のなりたい職業を持ち続ける子は、35.0%。およそ3人に1人だ。

注目すべきはここからだ。この「夢が一貫している群」は、むしろ「進路を深く考える」「自分で深く調べる」機会が少ない傾向がある、と報告されている。

これは何を意味するか。

早く夢を決めること自体が、学習意欲を支えているわけではない。 効いているのは、決めた夢の固さではなく、進路について考え、調べ、揺れ動いた経験の総量のほうなんだ。

だから、「やりたいことがない」と言っている子に、無理やり一つの夢を決めさせる必要はない。むしろ、決まっていないからこそ、これから考える経験を積める。「ない」はマイナスではなく、白紙のスタート地点だ。

9年間見ていて、僕は確信している。中学・高校で「将来の夢が定まっている」子は、実はそんなに多くない。定まっているように見える子も、よく聞くと「親や先生が喜ぶから」「なんとなく言いやすいから」その職業を口にしているだけのことがある。

「やりたいことがない」と正直に言える子のほうが、よっぽど健全だ。問題は夢がないことじゃない。進路を考える経験を、まだ一度も通っていないことのほうにある。


AI時代だからこそ、「自分の軸」は自分で起こすしかない

もう一つ、いまの時代ならではの話を加えておきたい。

進路を調べること自体は、かつてないほど簡単になった。職業の情報も、大学の情報も、AIに聞けば数秒で大量に返ってくる。「文系で生き物が好きならどんな進路がある?」と打ち込めば、きれいに整理された選択肢が並ぶ。

便利だ。でも、ここに落とし穴がある。

情報がいくら手に入っても、「自分が何にワクワクするか」だけは、AIには決められない

職業のリストは出せても、その子の心がどれに反応するかは、その子自身にしか分からない。AIが出した進路の地図は、あくまで一般論の地図だ。自分がどこに立っていて、どこに向かいたいかという「自分の軸」は、自分で起こすしかない。

僕たちの仕事は、その軸を起こす作業に伴走することだ。情報を与えることではなく、その子の中にある反応を、一緒に拾い上げること。

「変化が速すぎて、自分で地図を起こせなくなった」——これは大人のキャリアでよく起きることだが、進路に迷う中高生にも、同じことが起きている。選択肢が多すぎて、情報が溢れすぎて、かえって自分の軸が見えなくなる。だからこそ、軸を一緒に起こす伴走に価値がある。


進路を一緒に発見する、4つの手順

では、具体的にどうやって進路を掘り起こしていくのか。9年間の現場で効いた手順を、4つに分けて書く。

手順1:「夢は何?」をやめて、「何に時間を忘れる?」から始める

進路の話をするとき、いちばんやってはいけないのが「将来の夢は何?」と正面から問うことだ。

この問いは、子どもにとってプレッシャーでしかない。「ちゃんとした答え」を返さなきゃいけない気がして、口を閉じる。だから「べつに」「わからない」で終わる。

代わりに、僕はこう聞く。

「最近、時間を忘れてやってたことって何かある?」

ゲームでもいい。動画でもいい。友達とのおしゃべりでもいい。「立派な答え」を求めていないと伝わると、子どもは急に話し出す。

時間を忘れる瞬間には、その子の興味の核がある。ゲームが好きな子は、本当はゲームそのものじゃなく「攻略の手順を考えること」が好きだったりする。動画が好きな子は、「人にわかりやすく伝える構成」に反応していたりする。

職業名から入らない。反応の出る場所から入る。 これが入口だ。

手順2:興味を「軸」で見えるようにする

「時間を忘れること」を聞き出したら、次はそれを分解する。

僕は生徒の興味を、いくつかの軸で見るようにしている。たとえば——

  • 考えること自体が好きか、手や体を動かすのが好きか
  • 一人で深めるのが好きか、人と関わるのが好きか
  • 決まった答えを正確に出すのが好きか、新しいものを作るのが好きか

同じ「ゲームが好き」でも、軸で見ると全然違う。攻略法を緻密に組み立てる子は「考える×一人×正確」寄り。実況で人を楽しませる子は「作る×人と関わる」寄り。

こうやって複数の軸でその子の傾向を見えるようにすると、「ゲームが好き」という曖昧な情報が、「この子は、考えて、作って、人に届けることに反応する」という、進路に翻訳できる形になる。

授業では、こうした軸を質問に落とし込んだ簡単な診断を、生徒と一緒にやることもある。大事なのは結果のタイプ名ではない。自分の興味が、言葉と図で目に見える形になること自体が、子どもにとって大きい。「自分ってこういうことに反応するんだ」と、初めて自分を外から眺められる。

手順3:軸から、職業ではなく「方向」を広げる

興味の軸が見えてきたら、そこから進路を広げる。

ここでも、いきなり職業を一つに絞らない。「考えて、作って、届けることが好き」という軸からは、いくつもの方向が広がる。設計の世界、企画の世界、教える世界、表現の世界。一つの職業ではなく、「こういう方向の仕事は、たぶん面白く感じるはず」という束で見せる。

ここでAIを使うのは、とても有効だ。「考えることと作ることが好きで、人に届けるのも好きな人に向いてそうな仕事を、いろいろ挙げて」と一緒に打ち込んでみる。出てきたリストを、二人で眺める。

ただし、AIが出した答えで終わらせない。リストを見ながら「これはピンとこない」「これはちょっと気になる」と、その子の反応を一緒に拾う。AIは選択肢を広げる道具、反応を確かめるのは人間の仕事。この役割分担を、子ども自身が体感することにも意味がある。

手順4:小さく試して、また考える

最後の手順は、考えたことを小さく試すことだ。

気になる方向が見つかったら、それに一歩だけ触れてみる。その分野の本を1冊読む。関連する動画を見る。学校の探究活動のテーマにしてみる。可能なら、その仕事をしている大人に話を聞く。

試してみて「やっぱり面白い」と思えば、進む。「思っていたのと違った」と思えば、また手順1に戻る。これでいい。

冒頭のデータを思い出してほしい。効いていたのは、夢の固さではなく、進路について考え、調べ、揺れ動いた経験の総量だった。試して、違って、また考える。この往復こそが、子どもの学習意欲を内側から支える。

進路は、一度決めて終わるものじゃない。考え続けるプロセスそのものが、子どもを前に進ませる。


やりがちな失敗パターン3つ

ここまでの手順を、現場で台無しにしてしまう失敗を3つ挙げておく。良かれと思ってやってしまうものばかりだ。

失敗1:「夢は何?」と問い詰める

繰り返しになるが、これがいちばん多い。

心配な気持ちはわかる。でも「将来どうするの?」「何になりたいの?」と問われ続けた子は、進路の話そのものを避けるようになる。答えられない自分を責めてしまうからだ。

問い詰めは、進路を考える経験を遠ざける。逆効果だと覚えておきたい。

失敗2:職業から逆算しすぎる

「医者になりたいなら理系だね」「公務員が安定だよ」と、職業を起点に進路を固めてしまうパターン。

職業から入ると、子どもの興味は置き去りになる。本人が反応していない職業に向かって勉強しても、意欲は続かない。データが示した通り、効くのは「決めた職業」ではなく「考えた経験」のほうだ。

順番は逆だ。職業から興味へ降りるのではなく、興味から方向へ広げる。

失敗3:一度言ったことを変えさせない

「この前◯◯になりたいって言ってたじゃない」と、過去の発言を持ち出して縛ってしまうパターン。

子どもが進路を変えるのは、迷っているからではなく、考えているからだ。変えられる自由がある子のほうが、進路を深く考える経験を積める。「変えてもいい」と伝えることが、考え続ける環境をつくる。

揺れることを、責めない。揺れは、思考の証拠だ。


今日から、家庭でできる3つのこと

塾や学校でなくても、家庭で今日から始められることがある。3つに絞る。

1. 「進路の話」を、評価のない雑談にする

同じ2024年調査には、もう一つ大事な結果がある。父親や母親と将来や進路の話を「する」子は、進路を深く考える経験を持つ割合が高い、というものだ。

たとえば高校生では、母親と進路の話をする群で71.3%が「進路を深く考える経験あり」だったのに対し、話さない群では44.6%。差は大きい。

ただし、ここでいう「進路の話」は、詰問ではない。「あんたどうするの」ではなく、「お母さんは昔こういう仕事に憧れてたんだよね」くらいの、評価のない雑談でいい。親自身の話をするほうが、子どもは安心して口を開く。

進路の会話を、テストの結果を聞くような緊張した時間にしない。夕食の雑談くらいの温度で、ときどき触れる。それだけで、考える経験のきっかけになる。

2. 「時間を忘れたこと」を、月に一度聞いてみる

手順1で書いた問いを、家庭でも使える。

月に一度くらいでいい。「最近、気づいたら時間が経ってたことって何かあった?」と、軽く聞いてみる。返ってきた答えに、評価をつけない。「ゲームばっかり」と否定するのではなく、「それのどこが面白いの?」と一歩だけ掘る。

その「どこが面白いか」にこそ、興味の軸が隠れている。子ども自身もまだ気づいていない反応を、会話の中で一緒に見つけていく。

3. 尊敬できる大人に、触れさせる

調査では、「尊敬できる先生がいる」子のほうが、進路を深く考える経験を持つ割合が高いことも示されている。高校生で見ると、尊敬できる先生が「いる」群は70.8%、「いない」群は57.5%だった。

進路は、情報だけでは動かない。「あの人みたいになりたい」「あの人の話が面白かった」という、人との出会いが軸を起こす。

学校の先生でも、親戚でも、地域で活動している大人でもいい。子どもが「この人いいな」と思える大人に触れる機会を、意識して作る。塾の講師との相性を大事にするのも、同じ理由からだ。ツールでも教材でもなく、が、進路を考える経験の入口になる。


まとめ──進路は「決めるもの」じゃなく「考え続けるもの」

「将来やりたいことがない」

この言葉を、勉強しない言い訳として聞くと、対話は止まる。でも、学習意欲が続かない構造的な原因として聞くと、打てる手が見えてくる。

東大とベネッセの10年にわたる調査が示したのは、シンプルな事実だ。学習意欲を支えているのは、早く決めた夢の固さではなく、進路について考え、調べ、揺れ動いた経験の総量だった。

だから、やることは決まっている。夢を問い詰めるのをやめて、時間を忘れる瞬間から興味の核を拾う。それを軸で見えるようにして、職業ではなく方向に広げる。小さく試して、違ったらまた考える。この往復に、評価のない雑談と、尊敬できる大人との出会いを添える。

AIが進路の情報を無限に出してくれる時代だからこそ、「自分が何にワクワクするか」という軸は、自分で起こすしかない。その作業は、一人では難しい。隣で一緒に拾い上げる人がいて、初めて前に進める。

進路は、決めるものじゃない。考え続けるものだ。

そして、考え続けられる環境をつくることが、学習意欲をいちばん深いところから支える。

成績じゃなく、成長を。 その子が自分の力で進路を起こせるようになるまで、僕は伴走を続ける。


出典:東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2024」結果(2025年5月29日発表)。約2万組の親子を小1から高3まで追跡した縦断調査。本文中の比率はいずれも同調査の「進路を深く考える経験」あり/なし群の対比として報告された数値。

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